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安全性の分析

はじめに

ここでは、企業の実力を表す4つの構成要素(収益性、効率性、安全性、成長性)のうち、3つ目の要素である安全性を分析するための各種指標について詳細に説明します。

安全性を分析する指標は、ここで紹介するものに限れば全て貸借対照表(以降、B/Sと省略します)に示される数値で算出できます。そういう意味では、安全性を分析すると言う事は、資産構成のバランスから企業の財務健全性を見る事だと言えます。

事業を安定して行っていくためにも企業の安全性は高い方が良いですが、収益性をはじめとした他の構成要素と比べて、積極的に改善すると言うよりは、最低限の安全性を確保し続けると言う視点で分析する事が望ましいと言えます。

安全性を追求し過ぎると、収益性、効率性、成長性を低下させる要因となり得る事から、スリムなB/Sを目指して一定レベルの安全性を確保しつつ、収益性、効率性、成長性を最大化すると言うのが理想的です。

なお、財務分析の流れについては、財務分析(分析の流れ)で説明していますので、合わせて参考にしてみて下さい。

1.自己資本比率

自己資本比率は、以下の式で算出します。

この財務比率は、企業が所有する全資産のうち、返済する必要がない純資産がどの程度あるかを示すものであり、安全性分析における代表的な指標です。

一般に、自己資本比率は40%程度以上あれば健全であると言われますが、個人的には70%程度以上である事を健全度の目安として分析しています。

分析対象とする企業の成長ステージによって借入れの依存度は大きく異なるため、一概に何%以上自己資本が占めていれば安全であるかは判断できませんが、70%程度以上を健全である事の目安とする理由は、大きく分けて以下の2つです。

  1. ある程度の歴史があり、借入れにそこまで依存する必要のない企業にのみ投資する事を意識している。
  2. 利益を生み出す力が非常に強く、その結果借入に依存する必要がない企業を好んでいる

ある程度の割合で借入を行い、レバレッジをきかせて事業を拡大する方が効率的だと言う考えもありますが、そもそも、自己資本と他人資本の最適資本構成を判断する事は困難ですし、人も企業も、レバレッジに頼りすぎると、あとで痛い目に合うと考えています。

また、未曽有の大不況が訪れた際、返済義務のある借入金の利息の支払いで苦しむ事になるためです。不況の時は、ただでさえ売上や利益が大幅に落ちるにもかかわらず、債権者は利息の返済を待ってくれません。

最悪の場合、利息を期日に支払う事が出来ずに破綻するという事態にもなりかねません。また、不況から脱して業績が回復するのも早くなりますし、借入金に大きく依存している企業よりも株価の回復も早いと考えられます。

これらの理由から、自己資本比率は、100%である必要はありませんが、出来るだけ高く維持している企業が望ましいと考えます。

2.流動比率

流動比率は、以下の式で算出します。

この財務比率は、1年以内に現金化が可能と思われる資産が、1年以内に返済しなければならない負債の何倍程度あるかを示すもので、短期の財務健全性を調べるための代表的な指標です。

一般に、150~200%程度以上あれば健全と言われます。逆に、この比率が高すぎる場合は、必要以上に多額の現預金を活用せずに眠らせている、商品が売れずに棚卸資産が増大している、不良債権を多数抱えていると言った可能性もあるため、注意が必要です。

なお、現金預金を持ち過ぎていると、株主から効率化の観点から指摘を受ける事もあるため、流動資産の割合を抑えている企業もあります。そのような理由から、流動比率は財務の健全性を判断する上であまり参考にならないと書かれている書籍等もありますが、個人的には、安心感があるため150~200%程度を維持している企業が望ましいと考えています。

ただし、流動資産の中には、すぐには現金化できない可能性のある棚卸資産等も全て含まれるため、より厳密に財務の健全性を確認するために、次に述べる当座比率の値をしっかりと確認する事をおすすめします。

3.当座比率

当座比率は、以下の式で算出します。

この財務比率は、流動資産の中から、現金預金と現金化できる可能性が高い売上債権と有価証券のみを取り出し、その合計額が流動負債の何倍あるかを見るもので、先に述べた流動比率よりも厳密に短期の財務健全性を測れる指標です。

一般に、この比率は100%を超えていれば健全であるとされます。

その他の特徴としては、流動比率と同じになります。

4.固定比率

固定比率は、以下の式で算出します。

この財務比率は、主に長期保有を目的として購入される固定資産が、返済の必要がない純資産でどの程度賄えているかを確認するもので、一般的に100~150%程度以下であれば安全と考えられます。

人が資本のサービス業界等ではこの比率が100%を下回っている事が多いですが、設備投資型の企業では、一般に巨額の借り入れを行って設備投資費を調達するケースが多いため、この比率が150%を超える事はよくあります。そのため、固定比率が150%を超えると即危険と言うわけではありません。

このような場合、次に示す固定長期適合率を算出して確認する事で、本当の意味での安全性を調べる事が出来ます。

5.固定長期適合率

固定長期適合率は、以下の式で算出します。

この財務比率は、主に長期保有を目的として購入される固定資産が、返済の必要がない純資産と、すぐに返済する必要がない固定負債でどの程度賄えているかを確認するもので、原則として、100%以下である事が望ましいと言えます。

これが100%を超えている場合、その企業は1年以内に返済しなければならない短期の借入金で、長期の保有を目的とする固定資産を購入している事になります。

通常は、純資産と固定負債の範囲内で固定資産を購入するため、短期借入金まで使用して固定資産を購入している場合、過剰な設備投資を行っているか、財務の安全性に問題があり長期借入金が調達できない企業である可能性があります。

そのため、固定長期適合率が100%以下である事は、企業の安全性を分析する上で必須となります。

6.負債/当期純利益比率

負債/当期純利益比率は、以下の式で算出します。

自己資本比率が、総資産に占める純資産の割合と言う形で財務の健全性を測る指標であるのに対し、この財務比率は、返済の必要がある負債が純利益の何倍程度あるのか、という視点から財務の健全性を測るための指標です。

理想的なのは、直近2~3年分の純利益で全て返済できる程度の負債額に抑えている事ですが、多くても、直近4~5年分の純利益で全て返済できる企業を投資対象としています。

企業は、1年間の活動によって生み出した最終的な利益である純利益を、株主への還元として配当や自社株買いに割り振り、その残りを利益剰余金として毎年蓄積します。そして、それが積み重なる事によって企業の純資産は大きくなっていきます。

そして、蓄積した利益剰余金を原資に魅力的な新規事業への投資やM&Aを行う事により、長期的な成長を目指します。

借入れにあまり頼らない事を前提とすると、新規事業への投資やM&Aを行うための資金は、新株発行による資金調達か、利益剰余金の取り崩しが主になります。しかし、新株発行は、既存の株主にとっては好ましい事とは言えないため、可能な範囲で利益剰余金を原資とする事が一般的です。

つまり、将来への投資のための資金の源である当期純利益を、多額の借入金の返済に充てている場合ではないと言う事です。

そういう意味で、負債額が純利益の何倍程度あるのかを直感的に把握するのは有益であると考えます。

おわりに

冒頭でも述べましたが、安全性の分析は、今後も安定して事業を行っていける最低限のレベルが確保されているかと言う視点で行う事が望ましいと言えます。

その意味では、競合企業との比較優位性が重要である収益性、効率性、成長性とは異なります。

企業の安全性を分析する際は、例えば「流動比率が500%もあるから安全性はばっちりだ!」と言うような見方をするのではなく、「流動比率は150%程度で十分であるにも関わらず、500%もあると言う事は資産が有効に活用されていない証拠だ」と言う見方をするようにしましょう。ただし、固定長期適合率に限っては100%以下である事が絶対なので、注意しましょう。

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