Loading

成長性の分析

はじめに

ここでは、企業の実力を表す4つの構成要素(収益性、効率性、安全性、成長性)のうち、4つ目の要素である成長性を分析するための各種指標について詳細に説明します。

企業の成長性は、4つの構成要素の中で最も重要であるため、ここで成長性分析の基礎を身に着け、投資先の企業が将来にわたって力強く成長する実力があるのかを見極められるようになりましょう。

競合企業と比較したり、1つの企業の過去から現在までの数値を並べてみたりする事で、いろいろな発見があると思います。また、ここで示す比率以外にも、あなたが重要と考える数値を比率化して分析してみるのも有効でしょう。それにより、他の投資家が見落としてしまった重要な考察が得られるかもしれません。

なお、財務分析の流れについては、財務分析(分析の流れ)で説明していますので、合わせて参考にしてみて下さい。

1.売上高年平均成長率

売上高年平均成長率は、以下の式で算出します。

この財務比率は、基準とする年度から現在に至るまで、売上高が年率何%成長しているかを表すものであり、大きければ大きいほど1年間当たりの成長率が高いと言えます。

式が少し複雑であるため、簡単な例を用いて説明します。

例えば、ある企業の10年前から現在に至るまでの売上高年平均成長率を知りたいと考えた場合、10年前の売上高(100万円とします)と直近年度の売上高(1000万円とします)から、算出式は「((1000/100)^(1/10)-1)×100(%)」となり、25.9%と言う結果が得られます。

つまり、この例の企業は、10年前から毎年平均25.9%売上高を伸ばしてきたと言う事になります。なお、式中の「対象期間」は、この例では10年間としていますので、「10」が入ります。対象期間が5年の場合、「基準年度の売上高」は5年前の売上高が入り、「対象期間」には「5」が入ります。

以降で説明する他の成長性分析指標にも共通しますが、成長性を分析する場合は、直近10年、直近5年、直近3年と言った形で、いくつかの期間に区切って年平均成長率を算出する事をおすすめします。これにより、その企業の成長性を詳細に分析する事が出来ます。

例えば、10年間と言う長いスパンでの成長率と、3年間や5年間など直近数年間の成長率を比較する事で、ここ数年での成長が、昔と比べて鈍化していないかを調べる事が出来ます。

以下に、ある上場企業の実際の数値を用いて売上高年平均成長率を算出した例を示します。

例挿入

この企業では、10年前から現在まで、売上高を年平均ベースで○%成長させており、安定して成長している事が分かります。

次に、直近5年、直近3年の年平均成長率を見てみると、それぞれ○%、○%となっており、どちらも10年間の年平均成長率を上回っています。つまり、この企業は直近数年間で成長が鈍化しているどころか、成長のペースを加速している事が分かります。この事から、この企業は当面の間は成長が続くのではないかと考える事が出来ます。

この比率の注意点としては、基準年度の売上高の大きさによって結果が大きく変わると言う事です。例えば、基準とする年度がたまたま絶好調の年で、売上高が過去の数値を大きく上回ったとします。そうすると、式中の分母が大きくなるため、算出する年平均成長率としては小さくなります。逆に、基準とする年度が不調で売上が大幅に下落した場合、式中の分母が小さくなるため、年平均成長率としては大きくなり、過大評価してしまう可能性があります。

従って、売上高や利益額が安定せず大きく上下するような企業の分析には向いておらず、安定して成長している企業を分析する際に効果を発揮します。

また、この比率では基準年度と直近年度の値しか使用しないため、過去から現在に至るまでの過程を分析に反映する事が出来ません。そのため、基準年度と直近年度のいずれかに異常値が出ている場合は、別の年度の値を使用する等の対応が必要です。

なお、売上高年平均成長率に関連する比率として、売上高成長率もあります。この比率は、単に基準とする年度から売上高がどれだけ大きくなったかを表す比率であり、以下の式で算出します。

この財務比率は、売上高が基準年度からどれだけ大きくなったかを見る事によってその企業の成長性を測るものです。売上高年平均成長率と同様に、基準とする年度を変える事で、長期的な成長性から比較的最近の成長性まで、幅広く確認することが出来ます。

分析時の注意点としては、上で述べた売上高年平均成長率と同じ事が言えます。

このように、1つの比率でも少し変える事でいろいろな使い方が出来ますので、財務分析に慣れてきたら、あなたが着目している数値を式に当てはめて自分なりの比率を作って分析してみるなど、応用してみるのも良いかもしれません。

2.各種利益額年平均成長率

各種利益額年平均成長率は、以下の式で算出します。

この財務比率は、基準とする年度から現在に至るまで、各種利益額が年率何%成長しているかを表すものであり、大きければ大きいほど1年間当たりの成長率が高いと言えます。式中の「各種利益」には売上総利益、営業利益、経常利益、当期純利益が入ります。

なお、算出方法及び注意点は売上高年平均成長率と同じであるため、ここでは省略します。

この比率では、純粋に利益が成長しているかを確認する事も大切ですが、もう1つの重要な点として、式に入る4つの利益がそれぞれどのように成長しているのか、その関係性を見る事です。

各利益の成長率に大きな違いはないか、あるとすればその理由は何か、と言った見方で分析する必要があります。

例えば、営業利益はほとんど成長していないのに経常利益と純利益が大きく成長しているような場合は、受取利息等の営業外収益で利益額を伸ばしている可能性が高く、本業はあまりうまくいっていないのかもしれません。そして、このような企業への投資は避けるべきです。逆に、営業利益は成長しているのに、経常利益や純利益が成長していない場合、恒常的に営業外損失を出している可能性が高いため、このような企業には、財務体質が改善されない限り投資は控えるべきでしょう。

このように、1つの利益にのみ着目してしまうと分析を誤るため、各利益が大きく乖離することなくバランスよく成長しているかを確認するようにしましょう。

なお、各種利益額年平均成長率に関連する比率として、各種利益額成長率もあります。これは、単に基準とする年度から各種利益額がどれだけ大きくなったかを表す比率であり、以下の式で算出します。

これについても、前述の売上高成長率と同じであるため、ここでの説明は省略します。

3.EPS年平均成長率

EPS年平均成長率は、以下の式で算出します。

この財務比率は、基準とする年度から現在に至るまで、EPSが年率何%成長しているかを表すものであり、大きければ大きいほど1年間当たりの成長率が高いと言えます。

なお、算出方法及び注意点は上の2つの比率と同じであるため、ここでは省略します。

この比率で重要な事は、何と言っても、EPSの成長が株価の上昇に直結すると言う事です。EPSを成長させずして、長期的な株価の上昇は見込めません。株価は短期的には様々な要因によって乱高下しますが、長期的には、企業の業績に連動し、その企業の本質的な価値に収束します。そのため、EPSを安定して成長させる事が出来ている企業の株価は、長期的に見て安定して上昇する傾向があります。

EPSは、以下の式で算出します。

この式から、EPSを成長させるには、大きく分けて①分子の利益額を大きくする②分母の発行済株式総数を減らす、の2つの方法があります。

①利益額を大きくする

これは理想的なEPSの成長方法です。利益額を大きくする事以外に企業が成長する方法はありませんので、EPSの成長率を分析する際は、利益額が大きくなっている事を合わせて確認すると良いでしょう。

②発行済株式総数を減らす

利益額を大きくしなくても、EPSを大きくする事が出来ます。これは、EPS算出式の分母にあたる発行済株式総数を減らす方法です。

これは、自社株買いと言う形で行われ、企業が自社の資産を使って市場から自社の株式を買い戻すと言う事です。

これにより発行済株式の総数が減るため、数値上はEPSが上昇します。逆に、企業が増資を目的として新規株式発行を行うと、EPS算出式の分母が大きくなり、数値上はEPSが小さくなるため、既存株主からは歓迎されません。

EPSの成長率を見る上で気を付けなければならないのは、利益が成長していないのにEPSが成長している場合です。この場合、企業がせっせと自社株買いを行ってEPSを大きく見せている事になるため、ある種の財務テクニックが為されている事になります。日本企業では、大規模な自社株買いを毎年行う企業はほとんどないため、このようなケースは稀だと思いますが、EPSの成長率を確認する際は、念のために利益がきちんと成長しているかを確認するようにしましょう。

ただし、自社株買いが悪いわけでは決してありません。むしろ、既存株主としては歓迎すべき事です。大切なのは、利益はしっかりと伸ばしつつ、自社株買いを定期的に行って株主に還元する事です。

なお、EPS年平均成長率に関連する比率として、EPS成長率もあります。これは、単に基準とする年度からEPSがどれだけ大きくなったかを表す比率であり、以下の式で算出します。

これについても、上の2つの比率と同じであるため、ここでの説明は省略します。

4.BPS年平均成長率

BPS年平均成長率は、以下の式で算出します。

この財務比率は、基準とする年度から現在に至るまで、BPSが年率何%成長しているかを表すものであり、大きければ大きいほど1年間当たりの成長率が高いと言えます。

なお、算出方法及び注意点は上の3つの比率と同じであるため、ここでは省略します。

BPSは、1株当たりどの程度の純資産を有しているかを表す比率であるため、BPSが増えると言う事は、株主の持ち分が直接的に増えている事を意味します。

大不況が来た場合等の不測の事態への備えや、新規事業、M&Aのための投資資金として、利益の一定額を内部留保として手元に残すことが一般的であるため、BPSは通常増加します。

したがって、BPSを成長させる事が出来ていないと言う事は、株主の資産を増やせていないだけでなく、不測の事態への備えや、新規事業への投資資金も不十分である可能性が高いと言う事になります。そのため、投資家の立場からすれば、投資先としては好ましいとは言えません。

一方で、一部の優良企業では、内部留保をほとんど行わず、利益の多くを配当や自社株買いに充てて株主に還元している事もあります。このような企業は、収益力が極めて高く、毎年安定して多額の利益を稼ぐ事が出来るため、内部留保して将来に備える必要がないと判断していると言えます。

ただし、そのような企業を見極めるのは難しいので、やはり安定してBPSを成長させている企業に投資する事をおすすめします。

なお、BPS年平均成長率に関連する比率として、BPS成長率もあります。これは、単に基準とする年度からBPSがどれだけ大きくなったかを表す比率であり、以下の式で算出します。

これについても、上の3つの比率と同じであるため、ここでの説明は省略します。

5.総資産年平均成長率

総資産年平均成長率は、以下の式で算出します。

この財務比率は、基準とする年度から現在に至るまで、総資産が年率何%成長しているかを表すものであり、大きければ大きいほど1年間当たりの資産増加額が大きいと言えます。

なお、算出方法及び注意点は上の4つの比率と同じであるため、ここでは省略します。

この比率は他の比率とは違い、大きければ大きいほど良いと言うわけではありません。基本的に、保有資産を効率的に活用して大きな売上高、利益を上げる事が望ましいため、財務諸表としては、スリムな貸借対照表(以降、B/Sと省略します)、大きな損益計算書(以降、P/Lと省略します)が理想的と言えます。

ただし、資産が全く増えていないのでは、将来へ向けた投資が全く行われていないと言う事になるため、一定程度は成長させる事が必要です。大切なのは、総資産の成長率以上に、売上高や利益額が成長している事です。

そういう意味で、次に述べる⑥EPS/BPS成長倍率や⑦売上高/総資産成長倍率と合わせて確認する事で、B/SとP/Lの成長度合いを総合的に分析する事が出来ます。

また、総資産が増えていても、その増加分が全て金融資産であれば、将来に向けた投資はなされていないため、総額の成長率を確認するのと合わせて、その内訳を確認する事が大切です。

なお、総資産年平均成長率に関連する比率として総資産成長率もあります。これは、単に基準とする年度から総資産がどれだけ大きくなったかを表す比率であり、以下の式で算出します。

これについても、上の4つの比率と同じであるため、ここでの説明は省略します。

6.EPS/BPS成長倍率

EPS/BPS成長倍率は、以下の式で算出します。

この財務比率は、EPSの成長率が、BPSの成長率の何倍であるかを測るもので、低いよりは高い方が良いと考えられ、1倍以上が良いと言えます。上でも述べたとおり、基本的にはスリムなB/S、大きなP/Lである事が望ましいため、1株当たり純資産であるBPSの成長以上に、1株当たり純利益であるEPSが成長している事が理想的です。

ただし、純利益から生み出される利益剰余金をしっかりと内部留保し、ここぞと言う時に必要な投資が行える資金を蓄えている事も重要であるため、BPSの成長も無視出来ません。

そのため、この比率は高ければ高いほど良いとは言い切れません。

明確な基準を設けるのは難しいですが、EPSもBPSも成長している事を確認しつつ、EPSの成長率の方が上回っているか、と言う視点で見ると良いと思います。

7.売上高/総資産成長倍率

売上高/総資産成長倍率は、以下の式で算出します。

この財務比率は、P/Lの最上位に来る売上高と、B/Sの合計額である総資産それぞれの成長率を確認し、売上高の成長率が総資産の成長率の何倍であるかを測るもので、高ければ高いほど良いと言えます。

また、これは効率性の分析のところで説明した総資産回転率(=売上高/総資産×100(%))と類似しますが、総資産回転率が1事業年度の比率を表すのに対し、この比率は複数事業年度の成長率を分母と分子に置いているため「一定期間の中で、どちらがより一層増えているか」を見る中・長期的な視点で総資産の回転率を測る比率と言う事も出来ます。

8.経営陣の投資能力簡易評価

将来の長期的な成長のためには新規事業への投資やM&Aが欠かせませんが、経営陣の投資能力を判断するのは困難と言えます。

しかし、ごく簡易的にではありますが、経営陣の投資能力を評価する方法がありますので紹介しておきます。決して万能ではなく、これだけを見て多くを判断することは出来ませんが、ないよりはあった方が便利という程度の認識で確認してもらえればと思います。

投資効率の簡易評価は、以下の流れで行います。

図 経営陣の投資能力簡易評価ステップ

この方法は、基準年度から現在までのEPSの増加額と内部留保の合計額を比較し、内部留保がEPSの増加に寄与しているかを確認すると言うものです。

内部留保投資効率(ROE’)は、以下の式で算出します。

1株当たり内部留保額は、企業が将来に向けた投資や財務面の強化を目的として手元に残した利益であり、1株当たり純利益(EPS)から、株主への還元である1株当たり配当額を引いて算出します。ここからさらに自社株買いに充てた金額も差し引けば、より厳密に内部留保額を算出できます。ただし、ここでは簡易評価の流れを説明する事を目的としているため、自社株買いの金額は考慮していません。

この比率が低い場合、内部留保をたくさん蓄えても、それがEPSの成長に貢献していないと言う事になるため、多額のキャッシュを貯め込んで寝かせているか、積極的に設備投資を行っているが、それがEPSの成長に貢献していないと言った事が考えられます。

実際にどのような状況なのかは、財務諸表を確認しなければ分かりませんが、この比率を見る事で、ざっくりと投資効率を確認する事が出来ます。

なお、他の比率と同様に、直近10年、直近5年、直近3年と言うようにいくつかの期間に分けて分析することで、中・長期的な視点から投資効率がどのように変化しているのかを確認する事も出来ます。

また、基準年度から現在までの平均ROEと、上で算出した内部留保投資効率(ROE’)を比較する事で、その企業が現在どのステージにいるのか、つまり、成長期にあるのか、成熟期にあるのか、あるいは成長期から成熟期への移行過程にあるのかと言った事がある程度分かります。

以下に、平均ROEと内部留保投資効率(ROE’)の大小関係から、企業がどのステージにいるのかを簡易的に評価してみます。ただし、これは1つの見方と言うだけで、必ずこれに当てはまるわけではありませんので、参考程度に留めて頂ければと思います。

図 企業の成熟度の簡易評価

1)平均ROE ≪ 内部留保投資効率(ROE’)

過去にそれほど利益が出ていなかったために、平均ROEとしてはそんなに高い値を示していませんが、過去から現在に至る過程でEPSが大きく成長してきている事で、ROE’は高い値を示しているパターンです。

このことから、平均ROE ≪ ROE’となっている場合は、成長著しい企業である可能性があります。

2)平均ROE ≒ 内部留保投資効率(ROE’)

1)のステージは脱し、長期的に高い利益率を達成しているため、平均ROEは高めの値を示しています。また、それと合わせて、EPSも成長を続けているため、ROE’も高めの値を示します。結果として、平均ROEとROE’が大きく変わらない値を示しているパターンです。

このことから、平均ROE ≒ ROE’となっている場合は、成長期は脱しつつも、まだまだ成長の余地がある安定した企業である可能性があります。

3)平均ROE ≫ 内部留保投資効率(ROE’)

安定した基盤をもとに、長期的に安定して利益を出せているため、平均ROEは高い値を示しています。一方で、EPSの成長は鈍化している事から、ROE’は低い値を示します。結果として、平均ROEがROE’を上回っているパターンです。

このことから、平均ROE ≫ ROE’となっている場合は、成長期を完全に脱し、成熟期にある企業である可能性があります。

おわりに

成長性に関するいくつかの比率を見てきましたが、大切なのは、それぞれを個別に確認するのと同時に、複数の比率を同時に確認する事です。

例えば、売上高はほとんど成長していないのに、利益額は年々大きくなっている企業などもあります。きちんと分析してみないと分かりませんが、コスト縮減を徹底することで、利益率を毎年アップさせていると言うプラスの見方も出来ますが、利益の源泉である売上高が伸びていないと言う事は、長期的な成長は望めないと言うマイナスの見方も出来ます。

このような場合、コストをゼロにする事は出来ないため、近い将来限界が来ます。やはり、売上高が力強く成長し、それに合わせて利益も成長している事が望ましいでしょう。

また、売上高や利益額が成長していても、増資を繰り返して発行済株式総数が増えているような企業では、1株当たりの利益額や純資産額を表すEPSやBPSは成長していない可能性もあります。最終的には、株主の利益額は持ち株数に応じて配分されるため、EPSやBPSを大きく出来る企業が株主の望む企業であると言えます。

このように、1つの比率を見るのではなく、全てを総合的に分析する事が大切です。

PAGE TOP