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企業の合理性に関する5つの質問

はじめに

ここでは、投資対象として検討している企業が、資産を無駄遣いしていないかを確認するための項目を、5つの質問という形でまとめています。企業は常に合理的に活動することが望ましいですが、時には過ちを犯します。そして、それが致命傷になることもあります。企業活動が合理的であるかは、経営者の能力に依存します。

経営者の最も重要な仕事は資本の配分であり、限られた資本を何に、どれだけ投じているかを確認・監視することが投資家には求められます。ここで示す内容を手掛かりに、経営者が株主の利益を無駄に使っていないかを確認する術を身につけましょう。

質問① 本業と関係のない企業の買収や、その他無駄な投資をしていないか?

上場している企業は、その多くがグループ会社で構成されており、有価証券報告書においても、単体の財務諸表に加えてグループ全体の成績表である連結財務諸表を作成し、提出しています。

そして、その企業がどのようなグループで構成されているのかは有価証券報告書で確認することができ、それぞれのセグメントにおける売上高や利益額なども詳細に記載されています。なお、有価証券報告書の見方については、有価証券報告書の分析(作成中)で詳しく説明していますので、参考にしてみて下さい。

最悪なのは、大きいことは良いことだという事で、明確な戦略もないままにさまざまな事業や企業に手を広げてしまうパターンです。それでうまくいくこともあるのかもしれませんが、そのようなハイリスクな企業に大切な資金を投じてはいけません。

あるいは、利益の多くを、投資有価証券株式持ち合いに配分してしまうケースもあります。株式持ち合いとは、複数の株式会社がお互いに相手方の株を保有することであり、取引先企業と将来も良好な関係を継続すると言った目的から株の持ち合いがなされたりします。

こうしたことも必要であるため、すべてが悪いわけではありません。しかし、これまで蓄積してきた利益の多くを投資有価証券や株式持ち合いとして使ってしまったのでは、より成長するための戦略的な投資のチャンスを逃すことになりかねません。そして何より、投資有価証券や株式持ち合いからはほとんど利益が出ず、下手をすれば保有株の下落により損失を出すこともあります。

次に述べる質問②と重複しますが、本来、企業の蓄積した利益はすべて株主に帰属します。そのため、利益の使い道は、株主価値が向上することに限定する必要があります。将来の成長に向けて積極的に投資をするのであれば、それは合理的かつ戦略的に行われる必要があります。

質問② 利益剰余金の使い方は適切か?

上でも少し触れましたが、利益剰余金の適切な使い方とは1)新規事業や企業買収2)自社株買い3)配当の3つです。以下、順に説明します。

1)新規事業や企業買収

これは、企業が将来の成長のために行う先行投資と言う意味で、最も重要なことです。また、その企業の成長段階に合わせた適切な投資である必要もあります。

例えば、成長期にある若い企業であれば、借入れを増やして積極的に設備投資を行う必要があるでしょうし、逆に、成熟期にある大企業などであれば、現在の資本構成を基本として必要な設備更新に費用を割り当てるなどです。

いずれにしても、設備投資や新規事業への参入が、将来の成長、つまり売上高や利益の増加に結びつかなければ意味がありません。しかし、投資を行う段階でその成否を確かめることはできないため、基本的には経営者の判断に一任する形になるでしょう。

投資家の立場からは、過去の実績を有価証券報告書から確認したり、同じく有価証券報告書から、その企業が行っている事業のセグメント情報を確認し、セグメントごとの売上高や利益額の状況から、過去に適切な投資や新規事業への参入が為されてきたのかを確認しておくようにしましょう。

2)自社株買い

自社株買いとは、その企業が過去に発行した株を自らの資金を使って買い戻すことです。これにより、その企業の発行済み株式総数が減少するため、利益の金額が変わらなくても、1株当たり利益(EPS)を大きくすることができ、同様の理屈でROEも大きくできるなど、株主にとってメリットがいくつかあります。

また、自社株買いをする企業としては、買い戻す際の株価は当然安いほうが良いため、大量の自社株買いを行う事で「この株は現在お買得ですよ」と市場にアピールすることにもつながります。

このように、自社株買いは株主にとってのメリットがたくさんあるため、企業は有望な投資対象が見つからずに利益が余っている場合などは、自社株買いによって株主に還元することが望ましいと言えます。

3)配当

株主への還元方法として最も分かりやすいのが配当でしょう。一般に、配当が高いことは良いことだと考えられており、企業が増配を発表したりすると株価は上昇します。そのため、利益剰余金の使い道として、配当は適切であると言えます(もちろん、配当も自社株買いも、将来の成長のために必要な投資を行った後の余剰利益で行うことが前提です)。

しかし、高配当が文句なしで良いことかと言われると、厳密には誤りです。

そもそも、企業が株主に利益を還元する、つまり、配当を出すということは、企業が余剰利益を運用するよりも、株主に還元して株主自身が運用する方が利益が出ると企業が判断していると解釈できます。

言い換えれば、企業側としては、株主よりも高利回りで利益を運用することができないためお返ししますと宣言していると考えることもできるわけです(少しひねくれた考え方ではありますが…)。また、配当には税金がかかるため、株主は自分の取り分である利益を企業から返してもらうために、税金を引かれてしまいます。

その点、自社株買いは税金がかからないため、個人的には配当を高くすることよりも、自社株買いを積極的に行ってほしいと考えています。

質問③ 投資有価証券が多すぎないか?

質問①でも述べたとおり、利益の多くを投資有価証券の購入に充てている企業は、利益を有効に活用しているとは言えません。投資を本業としている企業でない限り、通常の事業を営む企業が投資有価証券から得られる利益は微々たるものです。また、下手をすると保有している投資有価証券の価値が下がり、損失を出してしまいます。

以下に、投資有価証券の保有比率が年々上昇している実際の上場企業A社の一例を示します。以下の表に示すとおり、この企業は安定して業績を伸ばしており、自己資本比率が高く有利子負債もゼロという優良企業です。また、1株当たり純利益(EPS)も安定して増えており、それと合わせて配当も増やしています。なお、以下の例では自社株買いは省略しています。

表 2007年度~2016年度の実績

しかし、次の図表に示すとおり、固定資産に占める投資有価証券の割合が年々上昇していることが分かります。

図表 固定資産に占める投資有価証券の割合の推移

この例から分かるように、固定資産は2007年度から2016年度にかけて圧縮する傾向にある中、固定資産に占める投資有価証券の割合は16.8%から36.1%まで増加しています。A社は固定資産をあまり必要としないビジネスを展開しているため、固定資産の総額自体が小さいですが、それにしても投資有価証券の割合が高すぎます。

これは非常にもったいないと思います。何か戦略があってのことであれば良いのかもしれませんが、投資有価証券をたくさん保有するくらいなら、配当や自社株買いをもっと積極的に行って株主に還元した方がよほど投資家の評判は上がると思うのですが…。

質問④ 企業買収や新規事業に投資している場合、それが利益に貢献しているか?

企業買収や新規事業に参入する場合、当然ですが、それが利益に貢献する必要があります。すぐに利益に貢献することは難しいかもしれませんが、少なくとも、数年程度で利益が出ることが伺えるように少しずつ成長している痕跡が見えることが望ましいでしょう。

理想的なのは、企業買収や新規事業への参入によって、これまでの全体の利益率を上回ることです。例えば、長い期間にわたって自己資本利益率(ROE)が平均15%であった企業が、企業買収や新規事業への参入によってROEが15%以上になるようなケースです。これは、新たに開始した事業の利益率が、既存事業の利益率を上回っていることを意味するため、企業が行う投資としては最も理想的なケースと言えます。

逆に、企業買収や新規事業への参入の結果、これまでROEが15%であったのが14%以下になってしまった場合、新たに開始した事業が足を引っ張り、全体の利益率を押し下げていることになります。

最悪なのは、新たに開始した事業が長期間にわたって赤字を出しており、改善が難しいことが分かっているにも関わらず、なかなかその事業を切り離すことができないケースです。このような場合、新規事業を始める際に決して少なくない資金を投じているため、引くに引けなくなってしまっていると考えられます。何とかして黒字化を目指そうと努力は続けるのですが、結果的に赤字を垂れ流し続けてしまいます。

これとは反対に、赤字を垂れ流している事業を潔く処分した過去を持つ企業は、長期的に見て最適な結論を下したと考えられるため、その企業は合理的な判断をしたと評価することができます。

ここで述べたことは過去の有価証券報告書を調べれば確認できるため、複数の事業を展開している企業への投資を検討する場合は、確認しておくと良いでしょう。

質問⑤ 本社や自社ビルは、無駄に豪華ではないか?

本社や自社ビルは豪華である必要はありません。必要な機能を満たしていればそれでよいはずです。また、よほどのことがない限り自社ビルを建設する必要はなく、賃貸で問題ないと思います。企業が豪華な自社ビルを立てるのは、結局は見栄えをよくしたいことが理由であり、必要に駆られてのことではありません。

ウォーレン・バフェットの相棒であり著名な投資家であるチャーリー・マンガーも「本社の豪華さとその会社の財務内容とは、反比例することが多い」と言っています。必要のないもの(例えば自社ビル)に大金を費やしてしまう企業は、他の面でも合理性に欠けることが多いのではないでしょうか。

おわりに

冒頭でも述べたとおり、企業が合理的であるかどうかは経営者の能力に依存します。そして、企業の合理性が将来の業績の善し悪しを左右します。つまり、企業の合理性を確認するという事は、経営者の能力の高さを確認するという事でもあります。その意味で、企業の合理性を判断することは極めて重要であると言えます。

ここで述べてきた内容であれば、本社の豪華さ以外は全て有価証券報告書で確認することができます。また、本社の豪華さについても、インターネットなどで簡単に調べることができます。有価証券報告書を読み込むことは面倒ではありますが、企業の合理性を調べることは株式投資で長期的に利益を出し続ける上で欠かせないことだと思いますので、ぜひ時間をかけて調査してみて下さい。

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