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財務状況に関する3つの質問

はじめに

ここでは、定量分析で算出した各種比率の評価に加え、それらの数値が意味するところを深く理解し、考えるための項目を3つの質問という形でまとめています。

この記事では、重要と考えられる3つの内容に絞って示していますが、財務に関する追及は多岐にわたります。ここでの内容の他にも、調べる企業や業界によって調査項目を追加することで、さらに深い分析が可能になります。

大切なのは、定量分析で出てきた結果の理由・根拠を確認することだという事を常に意識しましょう。

質問① 有利子負債は多すぎないか?

有利子負債とは、社債と長期借入金を合計したものです。企業によっては「1年内返済予定の長期借入金」「1年内償還予定の社債」も加えましょう。これは、定量分析でも確認した、長期的な財務の健全性に関連するものです。

借入金が多すぎると、借金に頼って事業を展開していることになるため、長期的な財務の健全性が確保できていない可能性があります。また、借入金が多いという事は、その分だけ利息の支払い額が大きくなるという事であり、それだけ利益を圧迫してしまうことになります。

では、どの程度であれば負債を抱えてもいいのか、ということですが、これは判断の分かれるところでしょう。例えば、創業後間もない企業であれば、多額の借り入れを行って事業を展開する上で必要となる設備への投資を行ったり、事業を始めるための最初の在庫を揃える必要があります。

あるいは、ある程度の規模に達した企業であっても、新規事業を開拓して規模拡大を目指す企業であれば、そのために多額の借り入れを行うこともあります。

こうした企業では、一時的に財務状況が悪化します。そして、うまくいけば大きく成長を遂げ、それに伴って財務状況も健全に戻るでしょう。しかし、もしうまくいかなければ、借金だけが残り、利益が出ない中で利息の返済は行う必要があるという負のスパイラルに陥ります。そして、うまくいくかを見極めることは、容易ではありません。

私たちが探している企業は、創業後間もないスタートアップ企業でもなければ、規模拡大を目指すために多額の借り入れを行う必要がある企業でもありません。

私たちが探すべき企業は、新規事業の開拓や企業買収を行うための費用を、これまで蓄積してきた利益剰余金でその多くを賄うことができる、真に健全な財務能力を有した企業であり、少なくとも過去10年間の堅実な財務データを確認できる、合理的かつ実力を持った企業です。

そうした企業では、有利子負債がゼロ、もしくは、あっても直近2~3年の純利益ですべて返済できる程度に留まっており、財務諸表を確認すると、毎年きちんと返済を行い、着実に有利子負債が減っていることが分かります。

有利子負債が常に多い企業は、経済危機などの大不況が訪れた時に倒産する危険性があります。不況時は当然業績が下がりますが、利息の支払いは待ってもらえません。そのため、多額の借入金を抱えている企業は、たとえ利益を毎年出せていたとしても財務面で健全であるとは言えません。そのような企業への投資は避ける方が良いでしょう。

質問② 1株当たり純資産(BPS)は、年々着実に増加しているか?

1株当たり純資産(BPS)とは、企業が保有する純資産を発行済株式総数で割った値で、以下の式で算出します。

企業の純資産は、大きく分けて以下の4つで構成されます。

  1. 株主資本(資本金、資本剰余金、利益剰余金、自己株式等)
  2. 評価・換算差額等(連結貸借対照表では「その他の包括利益累計額」と表示)
  3. 新株予約権
  4. 非支配株主持分(連結貸借対照表のみ表示)

上記4つのうち、企業が年々増加させなければならないのは1.株主資本の中の「利益剰余金」です。利益剰余金とは、企業が毎年の事業活動を通して稼ぎ出した最終利益のうち、その一部を将来の成長のための設備投資や企業買収などの資金に充てるために社内で内部留保したものです。内部留保した分以外は配当や自社株買いなどで株主に還元されます。

図 純資産の増加イメージ

つまり、貸借対照表の純資産の部に大量の利益剰余金が計上されているという事は、その企業が過去に大量の純利益を稼ぎ出してきたことを意味します。また、企業の純資産は、資金の提供者である株主のものであるため、純資産が増えるという事は、株主の資産が増えることに他なりません。

そのため、企業は毎年安定して利益を稼ぎ出し、その一部を将来の成長に向けて内部留保することで純資産を大きくすることが求められます。ただし、純資産(利益剰余金)が増えても、それ以上に発行済株式総数が増えていてはだめです。純資産が増えても、それを分け合う人(株主)がそれ以上に増えてしまうと、一人当たりの取り分としては減ってしまうからです。つまり、企業には株主一人当たりの資産であるBPSを増加させることが求められます。

図 BPSの増加イメージ

BPSを増加させることができない企業は、長期的に見て大きく成長する可能性は低いと言えます。なぜなら、BPSが小さいという事は、これまでの事業活動を通して利益を積み増すことができていないことを意味するため、将来の成長のための設備投資や、企業買収などに充てる内部資金がないからです。

そのような企業が設備投資や企業買収を行う場合、銀行などから借入れを行うか、新たに株式を発行して資金を調達する必要があります。銀行から借入れを行えば、毎年大量の利息を支払う必要がありますし、新規株式発行を行えば、それだけ株主の数が増えるため、1株当たりの純資産を表すBPSはさらに低下します。

逆に、BPSが大きく成長している企業は、将来の成長に向けた設備投資や企業買収に必要な資金の大部分を内部留保から捻出できるため、既存株主に影響はありません。また、銀行から借入れを行っているわけでもないため、仮にその設備投資や企業買収が失敗に終わったとしても、資金繰りに窮して倒産すると言った心配も少なくなります。

このような理由から、1株当たり純資産(BPS)が年々着実に増えている企業は、そうでない企業と比べて将来展望が明るいと考えることができます。なお、BPSに関する記述は貸借対照表の分析でも書いていますので、合わせて参考にしてみて下さい。

質問③ 経済危機が訪れた場合、それを乗り切れるだけの十分な現金があるか?

経済危機が訪れた場合、いったいどの程度の現金があれば危機を乗り切ることができるのでしょうか。これは、どの程度の期間不況が継続するのかにもよりますし、景気循環型の企業であるか否かによっても大きく変わるでしょう。そのため、共通の基準と言えるものは存在しないと考えるべきです。

ですが、ある程度想定することはできそうです。例えば、1987年10月19日に突如発生した世界的な大暴落であるブラックマンデーは、翌日の10月20日に日本では株価が14.9%下落しました。そして、1988年4月には、日本はブラックマンデー以前の株価水準に戻りました。

また、2008年9月15日に発生したリーマンショックでは、日本はそれまで12,000円~14,000円前後で推移していた日経平均が、リーマンショック発生後わずか2ヵ月程度で7,000円前後まで暴落し、その後やや回復しましたが、2012年末の民主党→自民党の政権交代まで株価は停滞が続きました。その後のアベノミクス効果による2013年以降の上昇相場はご存知の通りです。

こうした過去の経済危機を基準として考えれば、少なくともその経済危機が継続した期間は不況が続く可能性があると考えても不思議ではありません。ブラックマンデーの時は半年程度と比較的早く回復しましたが、リーマンショックでは約4年半と長期間にわたって低迷しました。かなり幅がありますが、この事例から数年間は不況が続く可能性があることが分かります。そのため、このような経済危機が訪れた場合、少なくとも数年間は事業を継続できるだけの十分な現金が手元にあるかという事が1つの分岐点になりそうです。

企業が事業を行うための費用は、大きく変動費固定費に分けることができます。

  • 変動費:売上または工場などの操業度に比例して増減する費用のことで、売上原価や支払運賃などが該当します。
  • 固定費:売上の増減に関わりなく固定的に発生する費用のことで、変動費以外の費用が該当します。

経済危機が訪れた場合に事業を継続できるかどうかという事を考える場合、例えば1年間の固定費の何倍の現金があるかというような考え方はできそうです。もちろん、より安全側に考えるために、固定費だけでなく変動費も考慮したうえで、全てのコストの何倍の現金があるか、という視点から検討しても良いでしょう。

いずれにしても、次の大不況がいつ来るのか、そして、それがどの程度の影響を及ぼすのかということは予測することができません。ですが、備えることはできます。そして、私たちが投資すべき企業とは、こうした未知の出来事に対しても十分な備えを蓄えている企業と言えます。

おわりに

投資家にとっての一番のリスクは、投資先の企業が倒産することです。そして、ここで述べたような経済危機が訪れた場合などは、企業が誠実に事業を行っていたとしても倒産することがあります。そのようなリスクを回避するためにも①有利子負債が少なく②BPSが着実に増加しており③当面の危機を乗り切れるだけの十分な現金を保有している企業を探すことを心がけましょう。

上記を満たす企業はたくさんあります。そのような企業を投資先として選んでおくだけでも、倒産リスクに遭遇する危険性はかなり回避できると思います。

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