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損益計算書の分析

はじめに

ここでは、損益計算書を分析する上でのポイント、分析上の注意点について述べます。企業によって重視すべき点が異なるため、ここで書かれている内容で網羅できるわけではありませんが、株式投資を行う上で必須と思われる事項に絞って説明します。

なお、財務諸表は1年分のデータのみを分析してもあまり意味がないため、複数年分(理想的には、過去10年分)の財務諸表を確認することを前提に話を進めます。

また、ここで述べる内容は、あくまでも「株式投資をするための財務諸表分析」として位置付けていますので、損益計算書自体の説明は簡単に触れる程度に留めています。

財務諸表の詳しい見方や企業価値評価の方法をより深く学びたい方は、こちらにおすすめの書籍を紹介していますので、ぜひ参考にしてみて下さい。

1.損益計算書とは何か

損益計算書とは、ある一定期間(通常は1年間)における企業の事業活動の結果を数字で表したものです。

具体的には、ある一定期間に企業が商品やサービスの販売等によって得た収益(売上高)から、そのために使った費用(売上原価や販売費及び一般管理費など)を差し引いて、どれだけの儲け、つまり利益を生み出すことができたのかを表したものになります。

損益計算書は、貸借対照表に表れている企業の仕組みの結果として、どのような業績、リターンを上げられたのかを表しています。さらに、損益計算書について、売上高から出発してそれに続く各段階での費用や利益を見ていく事で、仕組みの結果としての収益構造やコスト構造を分析することができます。

2.望ましい損益計算書とは

基本的には、売上高の大小よりも、売上総利益から当期純利益にいたるすべての利益の金額が大きく、売上高に対する利益の比率も高い損益計算書が望ましいと考えられます。

つまり、売上高に対する利益率が当期純利益率の段階でもあまり低下せず、かなり高い水準にある損益計算書です。ただ、財務面の状況が表れる営業外損益、臨時的な異常に伴う損益が集計される特別損益は、株主価値を重視した財務構造の変革やリストラクチャリングの実行などによって変化するため、プラスが大きくマイナスが小さいことが基本的には望ましいですが、絶えずそういった状況が求められるわけではありません。

したがって、利益率の中でも、特に本業からの利益を表す営業利益率を重視していく必要があります。そのためには、差異化を行い付加価値を高め単価の面から売上高を増加させる、販売促進を徹底して行い量の面から売上高を増加させる、あるいは、コストダウンを行い利益率を改善する、販売管理コストの効率や効果を高めると言った点が課題になります。

ただ、利益率は業種によって違いがあるため、あくまでも同じ業種の中で比較することが重要です。また、コスト競争力を競争優位としている場合には、差異化を重視している場合と比較して利益率が低めになるなど、採用している戦略とも関連付けて分析していく必要があります。

図 目指すべき損益計算書

(出典:企業分析シナリオ[第2版] 東洋経済新報社、2006.10 著者:西村茂)

3.損益計算書で見るべき7つのポイント

ポイント1 損益計算書は過去10年分をチェック

冒頭でも述べましたが、損益計算書をはじめとした財務諸表は、単年度分だけを見てもあまり意味がありません。その年にたまたま調子が良かったとしても、それ以前の年度では全て赤字かもしれません。逆に、その年はたまたま赤字でも、それ以前の年度は全て黒字かもしれません。

大切なのは、過去から現在に至るまでに、その企業がどのような変遷をたどってきたのかを分析し、それを通して、その企業が将来も継続して成長していく実力を持っているのかを見極めることです。

そのために、面倒ではありますが、損益計算書をはじめとした各種財務諸表は、少なくとも10年分は確認することが望ましいと言えます。

以降、損益計算書で見るべきポイントや注意点について、詳細に説明していきます。

ポイント2 売上高、売上総利益、営業利益、経常利益、当期純利益は安定して成長しているか

まず、用語の解説を簡単にしておきたいと思います。

売上高:一定の期間(通常は1年間)に商品やサービスを売って得た代金の総額のことです。

売上総利益:売上高から、販売している商品やサービスの原価を差し引いて残った利益のことで、粗利益とも呼ばれます。

営業利益:売上高から売上原価と販売費及び一般管理費までを差し引いて残った利益のことで、企業の本業による収益力を表しています。

経常利益:営業外の損益である金融収支や資金調達等の財務活動までを差し引いた利益のことで、企業の総合的な収益力の高さを示しています。

当期純利益:臨時や異常時に計上する特別損益までを差し引いた企業の最終的な利益のことで、企業が1年間の事業活動を通して、最終的にどの程度株主の取り分を残すことができたのかを表しています。

少し話が逸れますが、ここで注意しなければならないのは、損益計算書で記載されている利益は、その全ての回収が完了しているわけではないという事です。

上で書いた売上高の説明のところで、「売上高とは、…商品やサービスを売って得た代金の総額」と書きましたが、企業は商品やサービスを売って得た代金を、すぐにすべて回収できるわけではありません。

通常、企業が行う事業活動での代金の支払いは掛け取引で行われます。これは、企業間の取引は1日に何度も行われて金額も大きくなることから、取引のたびに現金を用意して支払うことは大変かつ面倒であり、現実的に困難だからです。

そのため、企業間では一般に掛け取引を行い、代金の支払いや回収は、購入時や販売時ではなく、それから一定期間経過後に行うことになります。

つまり、商品やサービスの販売時、つまり売上として損益計算書に計上されるタイミングと、代金を回収するタイミングに時間差が生じることになります。もし、代金の回収が予定よりも大幅に遅れるようなことが続けば、日々の活動で生じるコストや借入金の返済に充てるキャッシュが手元にないと言ったことにもなりかねず、資金繰りに窮してしまいます。

代金の回収がうまくいかずに期日までに有利子負債を返済出来ないと、売上高や利益は順調でも倒産に至ります。これが黒字倒産です。

このような企業に誤って投資しないためにも、企業の資金繰りをはじめとした財務面での健全性を確認しておくことは重要です。貸借対照表を基に安全性を分析することで、その企業が今後も安定して事業活動を継続できる資金力、財務面での安全性があるかを調べることができます。

また、キャッシュフロー計算書を確認することで、その企業が1事業年度(1年間)で現金をどれだけ生み出し、手元に残すことができたのかを調べることができます。これがマイナスの場合、その企業は1事業年度で現金が増えるどころか、減ってしまったことを意味します。

安全性の分析方法については、貸借対照表の分析安全性の分析で詳しく説明しています。また、キャッシュフロー計算書の分析方法については、キャッシュフロー計算書の分析(作成中)で詳しく説明していますので、合わせて確認してみて下さい。

では、本題に戻ります。

損益計算書を分析する上でまず確認すべきことは、その企業の売上高、売上総利益、営業利益、経常利益、当期純利益が安定して成長しているかという事です。

ポイントは安定しての部分です。安定して成長を続けている企業は、将来の姿を描きやすいと言えます。過去に安定して成長してきた企業であれば、恐らく今後も、概ね同じような形で成長していくだろうと考えることができます。また、将来の利益予想や投資収益率を概略的に計算したい場合も、不安定な業績の企業と比べると、はるかに簡単です。と言うよりも、不安定な業績を出している企業の将来を予測することは、たとえ超概略であったとしても難しいでしょう。

当然ながら、何年にもわたって事業活動を行っていれば、調子の悪い時もあれば、不景気によって売り上げが落ちることもあります。それはどの企業でも同じであるため、問題ありません。大切なのは、過去10年程度の期間において、概ね右肩上がりの成績を安定して収め続けていることです。

ここからは、例を見ながら説明していきます。

以下に示す表は、競合関係にある実際の上場企業2社の損益計算書から、売上高、売上総利益、営業利益、経常利益、当期純利益を抜粋し、過去10年分表示したものです。

表 競合2社の売上高、各種利益額

これだけを見た場合、あなたはどちらの企業に投資したいと考えるでしょうか。

当然ながらB社だと思います。理由は、B社の方が売上規模が大きいからではなく、過去の業績が安定して成長しているからです。

上の表では数値が羅列されているのみで分かりづらいため、グラフ化したものを示します。

図 A社の売上高、各種利益額の推移

図 B社の売上高、各種利益額の推移

上のグラフを見ると、A社は売上高、利益ともに右肩下がりであるのに対して、B社は安定して右肩上がりになっています。くどいようですが、重要なのは、売上高の規模ではなく、売上高、利益がともに安定して成長しているかどうかです。

仮に、これだけの情報を基にA社、B社の今後の利益額を予測しろと言われた場合、A社の予測は困難でも、B社の場合は、何となくこのまま同じ程度の割合で伸びていくのではないかと考えられるのではないでしょうか。

もちろん、これだけで投資判断をすることはできませんが、このデータを見る限り、投資先として有望な企業は、明らかにB社と考えることができます。

ポイント3 各種利益率は一貫して高いか

次に、売上高に対してどの程度の割合で利益を残せているのか、つまり収益性の高さについて見ていきます。収益性の分析方法については、収益性の分析で詳しく説明していますので、合わせて確認してみて下さい。

ここでは、先ほどのA社、B社の他に、新たにC社を追加して検討してみます。下表は、それぞれの企業の損益計算書から売上高に占める各種利益率を算出したものです。なお、C社についても、A社、B社と競合する実際の上場企業の数値を使用しています。

表 競合3社の売上高に占める利益率

上の表を見ると、粗利益率(売上総利益率)は3社ともに概ね50%前後であり大きな違いはありませんが、営業利益率、経常利益率、当期純利益率では大きな差が出ています。

まず、A社については、粗利益率は平均すると3社の中で最も高いにもかかわらず、営業利益の段階でほとんど利益を出せておらず、赤字の年度も目立ちます。

B社、C社は、過去10年間で赤字の年は1度もなく、各種利益率が安定して成長している事が分かります。これだけを見ると、競合3社のうち、投資先として有望であるのはB社かC社のいずれかと言う事になります。上の表をグラフ化すると、それぞれ以下のようになります。

図 A社の各種利益率

図 B社の各種利益率

図 C社の各種利益率

次に、利益率の観点から投資先として有望と考えられるB社、C社の2社において、利益率として重要である営業利益率、当期純利益率に絞って1つのグラフの中で比較してみると、下の図のようになります。

図 B社とC社の利益率の比較

これを見ると、B社の利益率の方が高いことが良く分かります。2007年度の利益率はB社、C社で差はありませんが、そこから徐々に差が広がっていることが見て取れます。2009年度から2016年度にかけては、B社の当期純利益率がC社の営業利益率をほぼ毎年上回っており、収益性については、C社よりもB社の方が優れていると言えます。

このように、長期間にわたって競合企業と利益額の推移や利益率を比較することで、分析対象企業が安定して成長しているのか、あるいは競合企業と比べて収益性は高いのかといったことを、客観的な情報に基づいて分析することができます。

投資を始めたばかりの頃は、企業の分析方法が良く分からないため、応援したい企業や好感が持てる企業を選ぶと良いと言われますが、もしそのような判断のみに基づいて投資を行い、損失を出してしまうと、その企業を嫌いになってしまうかもしれません。

そのような事にならないためにも、ここで紹介したように、その企業が過去に安定して成長しているのか、競合企業と比べて高い利益率を出せているのか、この2点だけでも確認しておくと良いでしょう。

ポイント4 販売費及び一般管理費は、一貫して低いことが望ましい

先ほど見た各種利益率を高く保てるかどうかは、売上原価、販売費及び一般管理費(以降、販管費と省略します)をどれだけ抑えられるかにかかっています。このうち、企業の経営戦略によって大きく差が出るのが販管費です。つまり、実力のある企業は、そうでない他の企業と比べて、売上高に占める販管費の割合が低くなる傾向があり、その結果、企業の本業の収益力を表す最も重要な利益である営業利益が大きくなる傾向があります。

販管費の構成は企業によって異なりますが、大きくは以下のとおりです。

  1. マーケティング関係費:広告宣伝費、販売促進費など、商品の販売に必須のコストが該当します。
  2. 物流費:発送配達費など、物を運ぶ際に生じるコストが該当します。
  3. 人件費:給料手当及び賞与、役員報酬など、主に社員への給料が該当します。
  4. 研究開発費:研究開発費が該当します。
  5. その他:減価償却費、その他あらゆるものが該当します。

上の5つのうち、企業が採用する戦略によって差が出てくるのが1.マーケティング関係費2.物流費4.研究開発費の3つです。

販管費が競合企業と比べて明らかに低い(つまり営業利益率が高い)企業は、他の企業にはない何らかの優位性を持っていると考えられます(もちろん、人件費を削っているような企業はダメです)。

投資を検討している企業の優位性が確認でき、なおかつそれが今後も継続するとある程度確信できたならば、その企業は投資対象として有望である可能性が高いと言えます。

その企業が持つ優位性が何なのかを突き止めることは容易ではありませんが、販管費や営業利益率であれば損益計算書からすぐに確認できるため、販管費が競合企業に比べて低い企業を探してみると良いかもしれません。

ポイント5 研究開発費はゼロであることが望ましい

研究開発の必要性は業種によりますが、個人的には不要であることが望ましいと考えています。理由は、大きく分けて以下の3つです。

  1. シンプルに考えて、成長するために多額の研究開発費を投じる必要がある企業よりも、そうでない企業の方が良い
  2. 研究開発は、成果が出るまで数年程度以上かかるものが多く、また、成果が出ない場合もある
  3. 成果が出たとしても、それを定量的に測定することが困難である

結局のところ、研究開発は内容が難しいことが多いので、分からないものには手を出さないようにしましょうというのがここでの主張になります。

ただし、研究開発を行う企業が投資対象として相応しくないと言っているわけではありません。その業界や企業について深い知識がない場合は、研究開発の内容やその効果、あるいはそれが将来の利益にどのように貢献するのか、といったことを理解するのが難しいため、専門的な知識がない場合は避けた方が良いのではないかと考える次第です。

昔は、製造業が主要な産業であり、競争に勝つためには研究開発を盛んに行い、他の企業よりも優れた製品を素早く市場に投入することが重要でした。

しかし、全体的に成熟しつつある現在では、多様な業種が存在するため、研究開発が必要ない企業も多数あります。そして、そのような企業の中で有望な投資先を見つける方が、簡単だと思うのです。

ちなみに、研究開発費がどの程度計上されているかは、有価証券報告書から確認することができます。詳しくは有価証券報告書の分析(作成中)で書いていますが、ここでも簡単に触れておきます。

研究開発費は、有価証券報告書の「第2 事業の状況」の中の「6.研究開発活動」において、当該事業年度にどのような研究開発活動を行ったのか、そしてその結果、研究開発費としていくら計上したのかが記載されています。研究開発が不要な企業の場合は「該当事項はありません」と記載されています。あるいは「第5 経理の状況」の中にある「注記事項」にも、研究開発費の計上額が記されていたりします。

研究開発費は、同じ業界に属する企業でも投じている金額が大きく異なります。ここでは、研究開発が欠かせない製薬会社2社を例に見てみます。

表 製薬会社2社の売上高、営業利益、当期純利益

表 製薬会社2社の販管費の内訳

上の2つの表は、製薬会社2社の2016年度の業績、販管費の内訳をそれぞれ示したものです。まずは上の表から売上高の規模を確認すると、B社の方が10%程度大きいですが、そこまで大きな差ではありません。しかし、下の表から販管費の金額を見てみると、B社の販管費はA社の2倍以上となっています。そして、販管費に占める研究開発費の割合は、A社が約32%であるのに対し、B社は約22%となっています。

これらの表から分かるのは、A社は売上高を上げるために販管費を抑えていますが、研究開発を積極的に行い、その開発力を武器に売上高を伸ばしているという事です。実際、販管費の中で研究開発費に充てている金額が最も大きくなっています。

一方B社は、研究開発は行っていますが、それよりも、広告宣伝費や販売促進費にコストを費やしており、どちらかと言うと、マーケティングの方に力を入れているようです。実際、販管費の中で広告宣伝費・販売促進費に充てている金額が最も大きく、A社の10倍以上となっています。

次に、この2社の過去から現在に至るまでの研究開発費の割合はどのように変化してきたのかを調べてみると、以下の図で示す結果となりました。

図 製薬会社2社の販管費に占める研究開発費の割合の推移

これによれば、A社は、2007年度から2016年度において、販管費に占める研究開発費の割合が徐々に大きくなってきているのに対し、B社はほぼ横這いとなっています。

A社は、売上高も2007年度から2016年度にかけて約3.5倍に成長しており、研究開発の成果が売上高に貢献していると考えることができます。

一方、B社の売上高は同じ期間で約1.2倍程度の成長に留まっており、そろそろA社に追い抜かれるのではないか、と言うところまで来ています。

この例から分かるように、売上高が同程度で、かつ同じ業界に所属している企業であっても、研究開発に投じる金額は大きく異なっています。これは、企業によって成長ステージや戦略が異なるためですが、ここで重要なことは、研究開発が必要な業界では、研究開発をやめることはできないという事です。

この2社が今後も成長するかどうかは分かりませんが、今後も研究開発を行い続ける必要があることは間違いありません。そして多くの場合、その金額は年々大きくなっていきます。上で示したB社のように販管費に占める割合が一定でも、販管費自体が大きくなるため、それに比例して研究開発費も大きくなっていきます。

企業が成長を続ける以上、その成長を加速させるために販管費や研究開発に費やすコストも大きくする必要があるからです。

また、同じくB社の例のように、売上高や利益が大きくなっていないにも関わらず、研究開発費が年々大きくなっているようであれば、要注意です。なぜなら、研究開発は行っているものの、それが売り上げに繋がっていない可能性が高いからです。

研究開発費は無視できません。損益計算書だけを見ると、多くの場合「販売費及び一般管理費」という1つの項目しか記載されておらず、その内訳を確認することができません。しかし、企業によっては販管費の半分程度を研究開発費が占めることもあります。

損益計算書で販管費をチェックする時は、総額を確認すると同時に、その内訳、特に研究開発費も確認する習慣をつけましょう。

ポイント6 EPSは安定して成長しているか

EPSとは、1株当たり当期純利益のことで、1株当たりいくらの利益を上げたのかを確認する比率になります。なお、現在の株価をEPSで割ったものが、PER(株価収益率)であり、それぞれ以下の式で算出します。

各指標の詳細な説明はここでは省きますが、詳しくは今後別の記事でまとめるようにします。

さて、EPSで大切なことは、その利益は株主であるあなたものだという事です。これは意外と見落としがちな視点ですので、忘れないでください。例えば、EPSが30円の株を1,000株持っている場合、あなたの現時点での取り分は30円×1,000株 = 30,000円となります。これがもし、企業が努力をして翌年のEPSが40円になったとすると、あなたの取り分は40円×1,000株 = 40,000円に増えるわけです。

つまり、EPSを増やすという事は、株主の利益を直接的に増やすという事であり、逆に、EPSが減るという事は、株主の利益を直接的に棄損することになるわけです。そう言う意味で、企業が毎年EPSを安定的に成長させているかという事は、株主にとって極めて重大な関心事であると言えます。

このように考えると、自社株買いが株主に歓迎されることは理解できます。なぜなら、企業が自社株買いをすることで発行済株式総数が減るため、利益を大きくしなくても、EPSを増加させることができるからです。

例えば、発行済株式総数が1,000万株、税引後当期純利益が30,000万円の企業があったとします。この場合、EPSは30円(=30,000万円÷1,000万株)です。仮に、この企業が自社株買いを行ったとして、発行済株式総数が750万株に減ったとすると、税引後当期純利益は同じ30,000万円であったとしても、EPSは40円(=30,000万円÷750万株)となり、株主の取り分は増加します。パイの大きさは同じでも、分け合う人数が減れば一人当たりの取り分は増えることと同じです。

図表挿入

逆に、新規株式発行は、既存株主からするとあまり好ましいことではありません。なぜなら、新規株式発行により発行済株式総数が増えると、自社株買いを行う場合とは反対の理屈で、EPSが小さくなるからです。上の図で言えば、同じ大きさのパイを分け合う人が増えることで一人当たりの取り分が減ってしまうイメージです。

なお、EPSの成長性を確認する時は、発行済株式総数の調整を忘れないようにしてください。これについては、この記事の後半で詳しく書いています。

ポイント7 ROEは一貫して高い値を保っているか

ROEとは自己資本利益率のことで、以下の式で算出されます。

この指標は、投資家の出資金である自己資本(純資産)を用いて、どれだけの利益を上げたのかという事を判定する指標であり、投資家が最も重視する財務比率の1つです。

ただし、当期純利益は経常外の出来事による損益(特別損益)までを考慮した最終的な利益であるため、年度によって金額が大きくぶれる可能性があります。そのため、企業の本業からの収益である営業利益を基準として、分子に税引き後当期純利益の代わりに税引き後営業利益を用いたりすることもあります。

あるいは、実際に投下した資本に対してどれだけの利益を出したかを見るROIC(投下資本利益率)という比率を重視する投資家もいます。いずれの比率も「資本に対してどれだけの利益を上げたのか」を見ている点では代わりませんので、ここでは、分子に税引き後当期純利益を用いた標準的な自己資本利益率をもとに説明します。

まず、ROEが投資家にとってなぜ重要な比率であるかという事ですが、→参照

 

4.損益計算書を分析する上での4つの注意点

注意点1 EPS(1株当たり当期純利益)を調べる際は、発行済株式総数の調整を忘れない

EPSを調べる時は、各年度における発行済株式総数を確認し、必要に応じて調整することを忘れないようにしましょう。

例えば、ある企業のEPSを過去10年分確認したころ、以下のようだったとします。

これだけを見ると、2013年度に一度EPSが大きく減少し、その後また着実に成長しているように見えます。そして、2016年度のEPSは、2013年度から着実に増えてはいますが、2012年度のEPSには及ばず、結果としてあなたの取り分も5年前の金額より小さくなっているように見えます。そこで、上の表に各年度の発行済み株式総数を加えて再度確認してみると、以下のようになります。

つまり、上記の例では、2013年度に企業が株式を1:2に分割し、発行済株式総数が2倍に増えていたのです。

ここで注意しなければならないのは、株式の分割は、もともと発行している株式を分割しているにすぎないため、新たな株主を募集する新規株式発行とは異なるという事です。当然ながら、株式を1:2に分割するという事は、もともとは1つだったものを2つに分けるという事なので、1株あたりの価値・価格も半分になります。

例えば、ある企業が1:2の株式分割を行ったとします。あなたは、その企業の株式を分割前から1,000株保有しています。この場合、株式分割後のあなたの所有株数は、分割の割合と同じく2倍になり、2,000株になります。

要するに、企業が株式分割を行ったとしても、既存の株主に影響はないという事です。では、なぜ企業は株式を分割するのかというと、それは、株式の分割をすることで株の流動性を上げ、新たな投資家を呼び込みやすくするためです。

例えば、今までは1株5万円出さないと買えない株式があったとします。一般的な株式の最低購入単元は100株ですから、この企業に投資するには、5万円×100株 = 500万円が最低でも必要だという事になります。最低でも500万円が必要となると、個人投資家としてはなかなか手が出せません。

しかし、企業が例えば1:10の株式分割を行ったとすると、1株5万円の株を10株に分割するため、1株あたり5,000円になります。そうすると、株の購入単元は変わらず100株なので、最低投資金額は5,000円×100株=50万円となります。これならば、ある程度の資産を有している個人投資家であれば、十分参加することが可能になります。

このように、企業側にとっては、株式を分割することで投資に必要な最低金額を抑えることで株の流動性を上げ、より多くの投資家が出資をしてくれるというメリットがあります。

EPSの成長性を確認する時は、各年度の発行済株式総数も合わせて確認し、必要に応じて調整することを忘れないようにしましょう。

注意点2 各種比率の成長率を見る際は、過去10年、5年、3年それぞれの成長率を確認する

当サイトでは、財務比率分析を行う場合、過去10年分は確認することを推奨しています。それは、過去10年分であればインターネットから容易に入手できるからです。

どの企業も、金融商品取引法によって5年間は有価証券報告書をはじめとした各種文書を保存することが義務付けられていますが、実際は、過去10年程度の資料であれば入手可能です。10年以上前の資料も確認できるのであれば、それも含めて分析するに越したことはありません。

さて、企業分析の際は過去10年程度の資料を確認するものとして、もう1つ注意すべき点があります。それは、過去10年間の資料を、10年前~現在、5年前~現在、3年前~現在、の3つの期間に分けて、それぞれの期間における成長率を確認するという事です。

これについては、成長性の分析で詳しく書いていますのでここでは軽く触れる程度に留めますが、10年前と現在では企業を取り巻く環境が大きく異なるため、分析する期間を3つに分けることで、その企業が中・長期的に成長していける実力があるのか、また、成長は鈍化していないかといったことを確認することができます。

例として、ある企業の2007年度~2016年度における平均ROEと、売上高、各種利益、EPSそれぞれの年平均成長率を、直近10年、5年、3年ごとにまとめたものを示します。なお、ここで示す成長率は年平均成長率であるため、数値が小さくなっていれば、その期間における成長率が鈍化していることを意味します。また、ここで示す例は、実際の上場企業の数値を使用しています。

表 A社の過去の期間別年平均成長率(2007年度~2016年度)

これによれば、A社は過去10年間一貫して高いROEを示していますが、直近5年及び直近3年の成長率を見ると、直近10年の成長率と比べて明らかに鈍化しており、営業利益に関しては、直近3年間では成長率がマイナスに転じています。

このように、1つの企業の過去の成長率を10年、5年、3年と分けて確認することで、長期的に見て成長しているのかを確認できると同時に、近年の勢いも確認することができます。

過去に安定して成長してきたのかを確認する事も大切ですが、それと同じくらい大切なのは、将来もこの成長が続くのかということです。面倒ではありますが、過去の長期的な成長率を確認することと合わせて、直近の成長率も確認するようにしましょう。

注意点3 ROEを確認する時は、自己資本比率も合わせて確認する

先にも示しましたが、ROE(自己資本利益率)は、以下の式で算出します。

この式から、ROEを高めるためには、分子である税引き後当期純利益を大きくするか、分母である純資産を小さくするかのどちらかという事になります。

当然ながら、私たちが探しているのは、分子の税引き後当期純利益を毎年大きくしている企業です。ここで注意が必要なのは、分母の純資産が小さいことが理由でROEが高い企業です。純資産が小さいという事は、全資産に占める負債の割合が大きいという事であるため、財務面での安全性が低い可能性があります。

中には、総資産のうち99%程度が負債で構成され、残りの1%が純資産という恐ろしい企業もあります。この企業はROEの算出式の分母である純資産が極めて小さいため、ほんのわずかでも利益が出ると、とてつもなく大きなROEを示すことになります。

これは極端な例ですが、ROEを確認する時は、自己資本比率も合わせて確認することを忘れないようにしましょう。自己資本比率が高いという事は、言い換えれば、ROEとROA(総資産利益率)に大きな差がないという事です。

損益計算書で見るべき7つのポイントポイント7で説明したように、ROEは企業の総合的な収益性を測る上で極めて重要な財務比率と言えますが、安全性の分析で出てくる自己資本比率を下げると、ROEは上昇すると言う性質を持っています。

これは、ある程度までは借入れを行って積極的に事業展開をすることで、より効率的に収益性を高めることができると言う意味では理にかなっています。ただし、借入れをし過ぎると、当然ながら財務面での健全性が損なわれます。その最適バランスを見極めることは困難であるため、基本的には自己資本比率は高め(70%程度以上)が理想と考えます。

この考えに従えば、自己資本比率が高く、かつROEも高い企業と言うのは、財務分析の超重要公式であるPBR=ROE×PERを分解した時に表れる4つの構成要素である収益性、効率性、安全性、成長性のうち、成長性を除く全ての要素が高いことになります。そのため、あとは成長性を確認するだけで済みます。

図 理想的な企業のイメージ

上の図で示すように、理想的な企業というのは、自己資本比率が高く、かつ税引き後当期純利益も大きく、結果としてROE、ROAがともに競合企業と比較して高い企業です。それも、毎年一貫して高いROE、ROAを保っている企業です。

このような企業は、ROE算出式の分子である当期純利益も毎年成長しますが、それと同時に分母である純資産も大きく成長するため、結果として、ROEは毎年成長するのではなく、何年にもわたり一貫して高い値を維持し続けます。

ROEを確認する時は利益も純資産も成長している企業を探すことを心がけるようにしましょう。

注意点4 全て「一貫して」という視点を忘れない

最後になりますが、これまで何度も「一貫して」という言葉が出てきました。損益計算書を見る時も、その他の資料を見る時も、この「一貫して」というキーワードを忘れないようにして下さい。

過去10年間で、2~3年良い業績を収めているくらいでは有望な投資先とは言えません。少なくとも、7~8年は好業績を収めていて欲しいところです。企業である以上、調子が良い年も悪い年もあります。ですが、優秀な企業はそうでない企業に比べて一貫して高い業績を収めている傾向があります。

過去10年間で一貫して良い業績を収めているのであれば、次の10年も恐らく良い業績を出し続けるのではないかと期待できます。しかし、そのような企業でも、調子を崩す時があります。経済危機などの外的な要因に起因する時もあれば、企業が何か失敗を犯して業績が下がることもあります。

前者であれば、投資の絶好のチャンスが到来したと考えることができますが、後者であれば、それがチャンスなのか、それとも、これから始まる衰退の序章なのかを見極めることが必要です。これまで一貫して優秀な業績を出し続けていた企業の調子が少しでも崩れると、多くの場合、株価は暴落し、その日を境に下がり続けます。

そのタイミングで株を買い増すことができるか。ここが勝負です。それをするには、どれだけその企業を深く理解しているか、という事にかかっています。短期的には調子を崩しても、近い将来必ず成長軌道に戻るという確信が持てれば、直近の株価暴落は大きく稼ぐチャンスになります。

投資先として有望な企業は、多くの投資家が常にチェックしているため、あなたがその企業の将来性に気付いた時にはすでに株価は高値になっていることがほとんどです。そのため、何らかの原因で株価が暴落でもしない限り、買うチャンスは訪れません。

この滅多に来ないチャンスを掴んで投資で成功するためにも、損益計算書をはじめとした各種財務諸表から企業を調べる技術を身につけましょう。

おわりに

損益計算書について色々とみてきましたが、結局のところ、投資対象として有望な優良企業というのは、どの財務比率を確認しても安定している傾向があります。成長著しい中堅企業や上場後間もない企業においては、数値が大きく変動することがよくあります。そして、その変動を利用して利益を上げることも投資の醍醐味と言えるでしょう。

しかし、その変動を予測し、それを利用して利益を出すというのは極めて難しいです。一歩間違えればギャンブルになりかねません。私たちが探す企業は、あくまでも「安心して自分の資金を預けられる企業」です。周りでどれだけ大儲けしている人がいたとしても、それに惑わされないようにしましょう。それは、その人だから勝てたのであって、あなたは負けるかもしれないのです。

私たちが遵守すべき第一の原則は「元本の安全性を守ること」です。この原則を自分の中で最上位に位置付けることができれば、投資で大きな損失を出すことはありません。

そして第二の原則は「投機ではなく、投資をすること」です。この原則に忠実に行動できれば、少しずつかもしれませんが、資産を確実に増やすことができるでしょう。

資産を確実に増やしてくれる優良企業を探し出すために、損益計算書をはじめとした財務諸表を読みこなし、企業の真の実力を見抜けるようになりましょう。

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