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企業価値を構成する3つの変数

はじめに

ここでは、企業価値を構成する3つの変数として、現在生み出しているキャッシュフロー(C)、投資リスクを表す割引率(r)、企業の将来の成長率(g)のそれぞれについて詳細に述べています。ここでの内容を一通り理解すれば、企業価値の考え方について必要と思われる最低限のことは理解して頂けると思います。なお、ここで示す内容は企業価値とはどのようなものかという事を理解していることを前提としますので、これから学ばれる方は先に企業価値の定義を読んでみて下さい。

また、ここで述べる内容はあくまでも概略的な考え方であるという事を強調しておきます。企業価値についてより詳しく学びたい方は、おすすめの書籍の中の会計編で良書をいくつか紹介していますので、参考にしてみて下さい。

1.企業価値は3つの変数で算出できる

1-1.企業価値の算出式

企業価値の定義でも示していますが、ここでも改めて示しておきます。企業価値は以下の式で算出できます。

ここで、各変数の説明は以下のとおりです。

  • PV:Present Valueの略で、企業価値のことです。
  • C:企業が現在生み出しているキャッシュフローです。企業が生み出すキャッシュとして考えられるのは税引後当期純利益、フリーキャッシュフロー(FCF)などいくつかあり、どのキャッシュを使用するかは判断の分かれるところです。
  • r:discount rateの略で、割引率のことです。割引率は投資のリスク、あるいは期待するリターンによって設定されるため、risk/returnの略と考えることもできます。また、割引率は投資家から見れば期待収益率のことであり、企業側から見れば資本調達コストと言えます。
  • g:growthの略で、企業の将来の成長率のことです。

このように、企業価値はとてもシンプルな公式で算出することができます。次に、この式を導出するための流れを説明します。

1-2.評価式の導出方法

企業価値の評価式を導出するには、大きく分けて2つのステップを経る必要があります。以下、順に説明します。

ステップ1:永久還元定義式を理解する

企業価値の評価式を導出するためには、その前段階として永久還元定義式というものを理解する必要があります。とは言ってもこちらはもっとシンプルで、以下の式で表すことができます。

これは何かという事を理解するために、1つの例を考えてみます。

ある正直者が、あなたにこんな提案をしてきました。
”このニワトリは不死鳥で、毎年1つ金の卵を産む。そして、その卵は1つ100万円で必ず売れる。ただ、僕は今すぐにお金が必要なので毎年卵が産まれるのを待っている時間はない。そこで、このニワトリを今すぐ1,500万円で買ってくれないか”
あなたはこの提案に乗りますか?

この正直者は嘘は言いませんので、話の内容は真実であるものとします。これを整理すると、以下のようになります。

  • 金の卵は毎年1つ永久に手に入る
  • 金の卵は1つ100万円で必ず売れる
  • 今支払う金額は3,000万円である

一見、かなりお得な取引であるように思います。何もしなくても毎年100万円が手に入るのであれば、いま1,500万円支払ったとしても30年で元が取れます。また、その後も金の卵が手に入るため、子孫末裔まで永久に毎年100万円を手にすることができます。しかし、この取引に応じるかどうかは割引率(r)を何%に設定するかを決めなければ判断できません。ここでは、永久還元定義式を理解することを目的とするため、割引率(r)を10%と仮定し、この取引に応じるべきかを考えてみます。

この例では、毎年生み出されるキャッシュフロー(C)が100万円、割引率(r)が10%であるため、このニワトリの現在価値を算出すると、以下のようになります。

ここで、上の式では永久に式が続き答えが出せないため、等比数列という数学の考え方を適用します。式の両辺に(1+0.1)を掛け、元の式を差し引きます。

すると、式の右辺がほとんど全て消えてしまい、以下に示すシンプルな答えが出ます。そして、これが永久還元定義式と呼ばれるものです。ここまでの内容から、割引率(r)を10%と仮定した場合、正直者が提示してきた取引に対して支払うべき適正な価格は1,000万円であることが分かりました。結局、この正直者は詐欺師だったというオチです。

ステップ2:定率成長の永久還元定義式を理解する

ステップ1では、永久に手に入るキャッシュフローは100万円と一定でした。次は、このキャッシュフロー(C)が毎年一定の割合(g)で成長する場合を考えます。つまり、ステップ2では、手に入るキャッシュが1年後はC、2年後はC(1+g)、3年後はC(1+g)^2…と永久に増えていくことになります。

ここでも、1つの例を用いて考えてみます。

先ほどの詐欺師が改心し、あなたのもとを再訪して以下のような話を持ち掛けました。
”このニワトリは伝説の不死鳥で、毎年1つプラチナの卵を産む。前回持ってきたニワトリは毎年100万円になる金の卵を産んでいたが、今回のニワトリが生むプラチナの卵は、なんと毎年5%ずつ価値が上がる。つまり、1年目に産む卵は100万円で売れ、2年目に産む卵は105万円で売れる。ただ、僕は今すぐにお金が必要なので毎年卵が産まれるのを待っている時間はない。そこで、このニワトリを今すぐ1,500万円で買ってくれないか”

さて、この取引にあなたは応じるべきでしょうか。ステップ1と同じように考えてみます。

この例では、初年度に手に入るキャッシュフロー(C)が100万円、割引率(r)が10%であり、2年目以降はキャッシュフロー(C)が5%ずつ成長します。この条件をもとにニワトリの現在価値を算出すると、以下のようになります。

ここで、上の式では永久に式が続き答えが出せないため、ステップ1と同じく等比数列の考え方を適用します。式の両辺に(1+0.05)/(1+0.1)を掛け、元の式から差し引きます。

すると、式の右辺がほとんど全て消えてしまい、以下に示すシンプルな答えが出ます。そして、これが定率制調の永久還元定義式と呼ばれるものです。ここまでの内容から、割引率(r)を10%と仮定した場合、改心したという元詐欺師が提示してきた取引に対して支払うべき適正な価格は2,000万円であることが分かりました。今回は本当に改心し、お得な取引を持ってきたようです。

2.変数その1:現在生み出しているキャッシュフロー(C)

2-1.キャッシュフローとは

キャッシュフロー(C)とは、その企業が現在生み出しているキャッシュのことで、代表的なところだと税引後当期純利益、フリーキャッシュフロー(FCF)の2つがあります。FCFとは、営業活動CFからから本業を維持するために必要な投資額を差し引いた残りの金額のこと以下の式で表すことができます。

税引後当期純利益は損益計算書から確認出来ますが、FCFはキャッシュフロー計算書から確認することはできません。というのも、キャッシュフロー計算書に示される投資活動CFでは、本業を維持するための投資額と、新規事業などのための投資額が区別されていないからです。つまり、投資活動CFの中の「有形固定資産の取得による支出」などを営業活動CFから差し引いたとしても、そこには「将来のための投資」も含まれているということになります。

このような理由からFCFを厳密に算出することは難しいため、簡易的に「FCF=営業活動CF+投資活動CF」と考えても差し支えないと思います。複雑に計算して間違うよりも、間違うことを前提としてシンプルに考えることが大切です。

また、税引後当期純利益にしてもFCFにしても、いつの数値を使うかという問題があるかもしれません。これについては、以下の3つの考え方があります。

  1. 直近期末の数値を使用する
  2. 企業や会社四季報が発表している翌期末の予想数値を使用する
  3. 直近期末と翌期末予想値の平均値を使用する

書籍などを読んでいると3番目の方法を用いることが一般的なようです。ただ、予想は予想でしかないため、その点は注意が必要です。私はいつも保守的に考えるクセがあるため、直近期末の数値を使用することが多いです。

2-2.どのキャッシュを使うか

上では、企業が生み出すキャッシュ(C)として税引後当期純利益とFCFを上げましたが、どちらを使用するべきでしょうか。結論から言えば、一般的にはFCFを使うことが多いようです。

これは、税引後当期純利益は変動幅が大きく、年度により大きくばらつく可能性が高いことに起因しています。また「利益は意見、キャッシュは現実」と言われるように、どちらかというとキャッシュフローの信頼性が高いと考えられているためです。これは、利益はキャッシュの流入がなくても計上できる他、以下のような理由があります。

  1. 採用する会計方針によって利益額が大きく変化する。分かりやすい例としては、固定資産の減価償却の方法として定率法と定額法のどちらを採用するかによって、その期の費用負担額が大きく変わる。
  2. 会計方針の変更により利益額が大きく変化する。近年は国際会計基準(IFRS)を採用する企業も増えているため、会計方針を変更することによってその前後で大きく利益計上額が変わる。
  3. 海外でも事業を展開している企業では、為替レートの変動などによって利益額が大きく変化する。国内で事業が完結している企業は少なくなるため、この影響は今後も大きくなるものと考えられる。

こうした理由から、キャッシュの増減という事実を示すキャッシュフローが企業価値算定の際には利用されます。また、利益は水増しする余地があることからも、キャッシュフローの方が利益よりも真実を表していると言われます。

ただし、ここで注意しておきたいのは、利益が悪でキャッシュフローが正義であるというわけではないという事です。利益とキャッシュフローの違いは「利益は法的に権利・義務が生じた時点で把握するもの(発生主義)であるのに対し、キャッシュフローは実際に入出金がなされた時点で把握されるもの(現実主義)である」ということだけです。利益とキャッシュフローは計上のタイミングが違うだけで、本質的には同じです。

つまり、利益とキャッシュフローのどちらがより重要であるかという事を考えるよりも、それぞれが表現できないものを補完し合うものであるという認識が重要です。「利益を如何に大きくするかを考えつつも、資金がショートしてしまわないようにできるだけキャッシュフローが有利になる方法を考えよう」というのが正しい考え方であり、理想的な発想です。

確かに、経営者の中には利益を水増ししたりする人も実際にはいるため、キャッシュフローを確認しないわけにはいきません。しかし、ほとんどの経営者は真摯に経営に取り組んでいます。そして、利益を最大化することが目標であることに変わりはありません。

また、キャッシュフロー計算書を確認すれば分かりますが、FCF(営業活動CF-投資活動CF)は利益よりも不安定であることが多いです。利益は安定的に成長していても、FCFは増減を繰り返しています。これは、先にも述べたとおり、企業は将来への投資も積極的に行う必要があり、投資活動CFにはそうした将来への投資も含まれているからです。

投資額は企業の成長ステージによっても異なりますし、企業が今後の成長をどのように描いているかによっても異なります。利益が大きく出たときに、思い切って新規事業への積極的な投資を行うという決断をすれば、その翌年のFCFは小さくなります。しかし、そうした積極投資が、将来のさらなる利益に結びつくのです。

こうした理由から、私は個人的にはFCFよりも税引後当期純利益を使用しています。

3.変数その2:割引率(r)

3-1.割引率とは

割引率(r)とは、リスクの程度に応じて設定されるディスカウントレートのことで、リスクが高いほど割引率(r)の数値も大きくなります。また、割引率(r)は、投資家からすればその投資にどれだけのリターンを期待するのかという期待収益率であり、企業からすれば、それだけのリターンを投資家に返さなければならないという意味でコスト(=資本コスト)として認識されます。

割引率(r)の考え方を理解するためのポイントは①企業は永続することを前提とする②1年後の1万円は、現在の1万円よりも価値が低い、の2つです。

①企業は永続することを前提とする

生物には寿命がありますが、企業には寿命はありません。そのため、企業は将来にわたって永遠に事業活動を行い、キャッシュを生み出し続けるものと考えます。このような考え方をゴーイングコンサーン(継続企業の前提)と言ったりもします。ただし、実際には倒産する可能性もありますし、事業をやめてしまうこともあるため、厳密にはそうしたリスクも考慮に入れて企業価値を算出する必要があります。

しかし、近い将来倒産するかもしれない企業に投資をする必要はなく、今後も継続して成長することが見込める企業にしか投資をしないものと考え、ここでは話を簡単にするためにも、あくまでも企業は永続することを前提とします。

②1年後の1万円は、現在の1万円よりも価値が低い

1年後の1万円と現在の1万円は、同じ価値ではありません。なぜなら、いま1万円をもらってそれを貯金すれば、1年後には利息がついて「1万円+利息」になるからです。貯金ではほとんど利息が付きませんが、仮に1万円を年率10%で運用できる(これを利回り収益率と言います)と仮定すると、1年後には1万円に10%の利息がついて1.1万円(=1万円×1.1)になります。

さらに、その1.1万円を翌年も年率10%で運用すると、1.1万円に10%の利息がつくため、1.21万円(=1.1万円×1.1)になります。これをひたすら繰り返せば、複利の効果で最初の1万円はどんどん膨れ上がり、例えば20年後には約6.7万円(=1万円×(1.1^20))になります。

つまり、上の例と同じく利回りを10%と仮定すると、今の1万円は、1年後の1.1万円に相当することになります。逆に言えば、1年後の1万円は、今の9,091円と同じ価値(9,091円を利回り10%で運用すると、1年後に1万円になるため)になり、20年後の1万円は今の1,486円と同じ価値(1,486円を利回り10%で20年間運用すると、20年後に1万円になるため)になります。

もっと飛んで100年後の1万円は、なんと今の0.726円と同じ価値(0.726円を利回り10%で100年間運用すると、100年後に1万円になるため)しかありません。このように、キャッシュの価値は将来になればなるほど下がるため、将来得られるキャッシュの価値を現在の価値に置き直すためには、ここで挙げた例に従うと、毎年毎年10%で割り引く必要があります。これが割引率の考え方です。そのため、利回りと割引率はコインの表と裏の関係にあります。

この考え方を一般化すると、以下のようになります。

図 利回りと割引率の考え方

上で述べたように、キャッシュの価値は将来になればなるほど下がるため、遠い将来のキャッシュフローを現在の価値に割り引くと限りなくゼロに近づくことになります。上記のの考え方を用いることで導かれるのが、1.で示した永久還元定義式になります。

3-2.割引率を設定するために必要なこといろいろ

割引率(r)を設定するには、実際には①リスクフリーレート②ベータ値(β)③株式市場プレミアムの3つを決める必要があります。それぞれの言葉の意味は以下のとおりです。

  • リスクフリーレート:支払いの確実な国債の利回りのこと。
  • ベータ値:投資検討先の企業の株価の変動幅が、株式市場全体より高いか低いかを数値で表したもの。変動幅が高ければ(β>1)となり、変動幅が低ければ(β<1)となる。
  • 株式市場プレミアム:株式市場は国債と比べてどれだけ高い利回りを達成するかという期待を数値で表したもの。

そして、上記3つを用いて割引率(r)を設定する方法を資本資産評価モデル(CAPM)と呼びます。

図式 割引率(r)の算出式

(出典:日経BP実戦MBA② MBAバリュエーション(一部編集))

①リスクフリーレートは10年物国債の利率を調べれば分かりますが、②ベータ値③株式市場プレミアムを厳密に設定することは困難です。そのため、ここではこれらを厳密に設定することはしません(というより、私にはできません)。では、株式投資をする上で普段どのように割引率(r)を設定するかというと、個人的には好きな値を設定する、という方法を取っています。

割引率(r)は、投資家から見れば期待収益率であるため、その投資にどれだけのリターンを期待するかを数値化したものという事ができます。そのため、極端な話ですが、その投資で30%のリターンを期待するのであれば、割引率(r)を0.3(30%)とすれば良いことになります。しかし、30%というのはいくらなんでも無茶なので、現実的な値を設定するようにしています。

その現実的な値とは何%かというと、「割引率(r)=7%」というものです。この数値は、過去の株式市場における期待利回りがおよそ5~9%であるため、その平均値をとったものになります。つまり、7%という数値を基準として、それよりも高いリターンを期待するのであれば7%以上の値を設定し、それ以下でも良いというのであれば7%未満の値を設定します。

4.変数その3:将来の成長率(g)

4-1.成長率とは

成長率(g)とは、その企業が将来どの程度成長するかを数値で表したもので、ここに適用されるものとしては、フリーキャッシュフローや1株当たり純利益(EPS)などが考えられます。他にも、企業の成長を測る指標としては売上高や営業利益などいろいろなものが考えられます。しかし、株価が上昇するためには、理論的には1株当たり純利益(EPS)が大きくなる必要があるため、ここではEPSの成長率を企業価値評価式の変数である成長率(g)として考えます。

どの指標を成長率(g)として適用するにしても、その数値が過去に安定して成長してきたという実績がなければ、将来の成長性を占うことは困難と言えます。そのため、ある程度の根拠を持って企業価値を算出するためには、その企業の業績が安定して成長していることが条件になります。言い換えれば、業績が安定せずに年度によって大きくばらつく企業は、たとえざっくりであったとしても、企業価値を算出することは難しいでしょう。

4-2.成長率の変化をどう組み込むか

たとえ、過去にどれだけ安定して成長してきた企業であっても、その成長率が一生続くわけではありません。そのため、企業価値評価の専門書などでは、将来の成長率の変化を企業価値評価に組み込むためのさまざまなモデルが紹介されています。

例えば、今後数年間は一定に成長し、その後は成長率が鈍化し、インフレ率などの一定の水準に落ち着くという2段階成長モデルなどです。

図 成長率の変化イメージ

しかし、どのようなモデルを適用したとしても、予測であることに変わりはなく、企業の将来の成長率を正確に評価することはできません。将来的には成長が鈍化してインフレ率と同程度になると考えられる大企業が、画期的な発明をして将来さらに成長するかもしれませんし、逆に、今後も当分は高い成長率を維持し続けると考えられているIT企業が倒産するかもしれません。

1年後にどうなるかを予測することも難しいのに、未来永劫にわたって予測することなどできません。難解なモデルを適用して具体的な将来予測をしようとも、過去のデータからざっくりと簡易的に予測をしようとも、そのどちらが正しいのかを確認する手段はありません。将来のことは、将来になるまで分からないからです。であれば、今手元にある情報からざっくりと見通しを立て、それを保守的にいくらか割り引いて考える方が、手間もかからずに良いと思います。

おわりに

企業価値評価式の導出方法、各変数の説明をしてきました。ここまで読まれた方は、企業価値評価の基本的な内容は理解して頂けたと思います。企業価値の算出と言うと難しそうなイメージがあり、一般的な個人投資家が株式投資を行う上ではあまり検討されていないように思います。

しかし、企業価値をざっくりとでも算出できれば、それを発行済株式総数で割ることで理論株価を算出できます。究極的には、理論株価を算出してその値と実際の株価を比較する以外に割安か割高かを判断する手段はありません。PERによる割安判定も可能ですが、それ単体で判断することは危険です。企業価値評価もPERも元をたどれば同じです。このあたりについてはDCF法とPERの関係で詳しく述べていますので、参考にしてみて下さい。

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