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DCF法とPERの関係

はじめに

ここでは、企業価値評価の方法として最も一般的なDCF法と、株価の割安判定を行う際の代表的な財務比率であるPERの関係について述べています。ここで述べることを一通り理解すれば、DCF法とPERが根本的には繋がっているということ、そして、PERを用いて株価が割安かどうかを判定するとはどういうことなのかといったことを理解して頂けると思います。

1.DCF法とPERはコインの表と裏

まず、DCF法による企業価値評価式と、PERの算出式をそれぞれ示します。

ここで、企業価値評価式の構成要素である「C」は企業が現在生み出しているキャッシュを示していますが、この大元となるのは純利益であるため、キャッシュ(C)を純利益(E)と置き換えます。さらに、PERの算出式では通常、分子に1株当たりの株価を、分母に1株当たり純利益(EPS)を用いますが、これは、分子に株式時価総額(PV)を、分母に企業が生み出す純利益(E)の総額をそれぞれ用いることと同じであるため、上で示した2つの式は、以下のように変換することができます。

次に、DCF法による企業価値評価式の両辺を純利益(E)で割ります。

そうすると、DCF法による企業価値評価式の左辺が、PERと同じになっていることが分かります。このことから、PERは企業価値評価式の分母である「r-g」の逆数であることが分かります。

ここまでの内容から、例えばPERが10倍の企業というのは、DCF法の分母である「r-g」が0.10(10=1/0.10)と評価されているという事が分かります。同様に、PERが25倍の企業は「r-g」が0.04(25=1/0.04)と評価されていることになります。

このように、企業価値評価の最も一般的な方法であるDCF法と、株価の割安判定に使用される代表的な財務比率であるPERは、実はコインの表と裏であり、根本的には繋がっています。

ただし、ここで述べた内容だけでは、例えばPERが20倍の企業はr-g=0.04(4%)であると市場で評価されていることは分かっても、「r」が何%で「g」が何%なのかまでは分かりません。r=7%、g=3%なのか、r=3%、g=-1%なのか、あるいはそれ以外なのか…。

これらの評価は別途行う必要がありますが、ここではあくまでもDCF法とPERは繋がっているという事を理解して頂ければと思います。なお、割引率(r)と成長率(g)に関しては「企業価値を構成する3つの変数」で詳細に説明していますので、参考にしてみて下さい。

DCF法とPERの関係は、株価の割安判定を行う上でとても重要な事実なのですが、あまり意識されていないようなので、ここでしっかりと覚えておきましょう。

2.PERが10倍と25倍では何がどう違うのか

1.の最後に、DCF法とPERの関係を理解することが株価の割安判定を行う上で重要であると述べました。しかし、一体何が重要なのでしょうか。実際、企業価値評価の方法を知らなくても、ある企業のPERを競合企業や日経平均のPERと比較すれば、その企業の株価が割安なのかを判定できます。しかし、PERの数値だけを見て割安判定を行うことは危険です。

例えば、同じ業界に属するA社とB社があるとして、それぞれPERがA社は10倍、B社は25倍であると仮定します。この場合、PERのみを用いてどちらの企業が割安かを判定すると、当然A社ということになりそうです。しかし、先ほど説明したDCF評価とPERの関係をきちんと理解していれば、「PERが10倍のA社の方がB社よりも割安だ」と即座に結論を出すことはできません。本当に割安であるかを判断するには、以下の2つの検討が必要になります。

①A社とB社の成長性を、市場はどのように評価しているのかを判断する

A社、B社の将来の成長性を市場がどのように評価しているのかを知るためには、割引率(r)が何%と評価されているのかを知る必要があります。しかし、実際にはそれは困難です。割引率(r)は投資家の立場からすれば期待収益率であるため、割引率(r)を調べるためには、市場に参加している多くの投資家がその企業のリスクをどのように考え、それを踏まえてどの程度のリターンを期待しているのかという事を調べる必要があります。

しかし、企業に対する投資家の評価はさまざまであり、それゆえにさまざまな割引率(r)が設定されていると考えられます。そうしたさまざまな思惑の上に株価は成り立っており、一律に割引率(r)を設定することは困難です。

ただし、企業価値を構成する3つの変数でも述べているとおり、過去の株式市場における実績から、ある程度目安となる数値があります。それは「割引率(r)=7%」というものです。この数値は、株式の期待利回りがおよそ5~9%であるため、その平均値をとったものです。そこで、ここでは割引率(r)を7%であると仮定して説明を続けることとします。

さて、先に述べたとおり、PERが10倍のA社であれば、企業価値評価式の分母である「r-g」が0.10(10%)であるため、割引率(r)を7%とすると、A社の成長率(g)を市場は-3%(7%-(-3%)=10%)と評価していると考えることができます。同様の理屈から、PERが25倍のB社は「r-g」が0.04(4%)であるため、B社の成長率(g)を市場は+3%(7%-(+3%)=4%)と評価しているという事になります。

つまり、この例で言えば、PERが10倍のA社に対して、市場は「今後毎年3%ずつ利益が減少する、つまり成長率がマイナス3%である」と評価しており、PERが25倍のB社に対しては「今後毎年3%ずつ利益が増加する、つまり成長率がプラス3%である」と評価していると考えることができます(ただし、割引率(r)が7%であることを前提とします)。

ここまでの情報を考慮すると、果たして本当にA社の株価が割安であると判断できるでしょうか。A社は今後衰退(マイナス成長)していくだろうと市場が評価しており、それが「PER=10倍」という財務比率として表れているのです。逆に、PERが25倍のB社については、今後成長するだろうと市場が評価していることになるため、実際その通りに成長すれば、それに伴って株価の上昇も期待できます。

もし、市場の見通しが正しければ、たとえPERが10倍であろうとA社に投資をするわけにはいかず、むしろ将来有望なB社に投資をする方が利益を得られる可能性は高いと言えるでしょう。

②A社とB社の過去の業績から、市場がつけている評価が正しいのかを判断する

次に、市場の見通しが正しいのかという事を、両社の過去の業績から確認する必要があります。これまでの業績から判断して、A社は本当に衰退しそうなのか、B社は本当に期待どおりに成長しそうなのかという事を調べます。それをせずに単純に市場の判断に従ってしまうと、割安な企業を見つけて利益を出すことはできません。

A社、B社それぞれの有価証券報告書を確認したところ、A社は市場の評価とは反対に安定して利益を出していることが分かったとします。試しに年平均成長率を算出してみると、約2%の割合で成長していることが分かりました。逆に、B社の業績にはムラがあり、業績が良い時は素晴らしい利益を出しているのですが、そうかと思うと、翌年には大幅に減益したりしていることが分かりました。B社の業績には安定性がないため、将来の成長性を予測する事は困難であることが分かりました。

これらの結果、A社、B社のそれぞれに対し、以下の判断を下すことができます。

  • A社:市場は将来の成長率をマイナス3%と評価し、その結果PERは10倍となっているが、過去から現在に至るまでのA社の実際の成長率を確認するとプラス2%である。よって、A社の実力から考えてPERは20倍程度が妥当(r=7%、g=2%なので、r-g=5%=0.05となり、1/0.05=20倍)である。つまり、市場はA社の評価を誤っていると考えることができるため、A社は割安であると判断できる。
  • B社:市場は将来の成長率をプラス3%と評価し、その結果PERは25倍となっているが、過去から現在に至るまでのB社の業績を確認すると、かなりムラがあり将来の成長率を設定することは困難である。よって、市場が評価するようにB社の成長率を3%と考えるにはリスクが高すぎることから、数値で定量的に判断するのは難しいが、少なくともB社を割安であると判断することはできない

これが、DCF法とPERの2つを用いて割安判定を行うということの一例です。ここでは説明のために簡単かつ極端な例を示しましたが、このようにDCF法とPERを関連付けて考えることで、数値の根拠を伴った割安判定が可能になります。なお、ここで示したような市場と自分の評価のギャップは、意外と見つけられることが多いです。

3.実際の上場企業の例

ここでは、これまで説明してきた内容を、実際の上場企業に適用してみます。

3-1.各種財務データの整理

以下の図表は、2007年度~2016年度における上場企業2社それぞれにおける、発行済株式総数調整後の株価、PER、EPS、フリーキャッシュフロー(FCF)、EPS年平均成長率を示したものです。ここで、株価は各年度の期中平均値を使用し、FCFは簡単のため「営業CF-投資CF」として算出しています。

図表 A社の2007~2016年度の各種財務データ

図表 B社の2007~2016年度の各種財務データ

これを見ると、A社、B社ともに1株当たり純利益であるEPSが安定的に成長していることが分かります。ただし、FCFについては、それぞれの成長ステージに合わせた投資の状況が反映されていることもあり、安定しているとは言えません。そのため、ここではEPSの年平均成長率を成長率(g)と考えるものとし、比較的最近の成長率を使用するために直近5年間の年平均成長率を算出しています。その結果、A社の過去の成長率は10.9%B社の過去の成長率は5.8%となりました。

3-2.市場評価の考察

次に、上で示した図表の中で最も最近の数値である2016年度のPERから、市場がA社、B社をどのように評価しているのかをDCF法の考えに適用して考察します(ただし、割引率(r)はA社、B社ともに7%と仮定しています)。

  • A社:2016年度の平均PERが21倍であることから、企業価値評価式の分母である「r-g」は0.048(1/21≒0.048)となる。割引率(r)を7%と考えると、市場はA社の将来の成長率(g)を2.2%(=7.0%-4.8%)と評価していると考えられる。
  • B社:2016年度の平均PERが17倍であることから、企業価値評価式の分母である「r-g」は0.059(1/17≒0.059)となる。割引率(r)を7%と考えると、市場はB社の将来の成長率(g)を1.1%(=7.0%-5.9%)と評価していると考えられる。

3-3.評価結果

上の考察から、市場はA社、B社の将来の成長率をそれぞれ2.2%、1.1%であると評価していることが分かりました。そのため、両社の実際の成長率がこれらの数値を上回っていれば割安下回っていれば割高であると評価できます。

では、実際の過去の成長率は何%であったかというと、A社は10.9%、B社は5.8%です。そのため、今回示した例では、A社、B社ともに割安であると判断できます。なお、ここで示した2つの例はどちらもかなりの成長率を示しているため、両社ともに割安という結果になりましたが、他の多くの企業は割高であることが多いです。

4.成長率(g)が高すぎると正確な評価は困難

3.で示した2つの例では両社ともにかなりの成長率を示していましたが、実は設定する成長率(g)が高すぎると、DCF法による企業価値評価は困難になります。その理由は、企業価値の算出式を見れば分かります。

この式から分かるとおり、成長率(g)が高すぎると分母がマイナスとなってしまい、その結果企業価値全体がマイナスの値になってしまいます。また、マイナスにはならなくても「r-g」が限りなくゼロに近づくことで、企業価値(PV)は無限大になります。

先ほど示した2つの例で言えば、A社の成長率(g)は10.9%であるため、割引率(r)を7%と仮定すると「r-g」が-3.9%となってしまい、評価不能であることが分かります。また、B社の成長率(g)は5.8%であるため、割引率(r)を7%と仮定すると「r-g」は1.2%となり、これはPERに直せば83倍という数値になります。PERが83倍というのは普通の状況では高すぎるのですが、計算上このような結果が出てしまいます。

では、割引率(r)を高い数値にすれば良いのかというと、そうでもありません。割引率(r)を都合のいいように設定してしまうと、それこそ数字のお遊びのようになってしまいます。割引率(r)は、何度も言うように投資家の立場からすれば期待収益率であるため、自分の期待するリターンに合わせて設定する分には問題ないのですが、本来、割引率(r)は投資リスクが高いとその分だけ高くなります(銀行よりも消費者金融の方が金利が高いのと同じです)。

成長が著しい企業=リスクが高い企業とも言えないため、このあたりは判断が難しいところです。結局のところ、万能な評価方法はないということをある程度自分の中で認識した上で、その都度評価を行うという姿勢が大切になります。

おわりに

これまで述べてきたように、PERを用いて株価の割安判定を行うことと、DCF法を用いて企業価値を算出することは、根本的には繋がっています。このことを知っているだけでも、PERの考え方が変わります。また、企業の価値はのれんの創出力であり、のれんの創出力を表す「PBR=ROE×PER」という式の中にも、PERはでてきます。

つまり、企業価値評価とのれんの創出力、そしてPERは全て繋がっていると言うことです。このように、企業価値評価と各種財務比率を関連付けて考えることで、これまでバラバラに考えていた1つ1つの点が一本の線で繋がります。ここまで知ったうえで企業分析に取り組めば、これまでとは一味違った考察が得られるかもしれません。

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